『潮音』4月号の「探照燈」潮音集Ⅰより
腰かがめ銀杏の落ち葉拾ふ人シアトルの街の凍てる早朝
佐藤容子
〝ハンターズムーン〟と名付けられし満月の傍に寄り添ひ光る木星
松山裕子
歌つくり今日は締切り提出日やる事のあり幸せな日々
荻上美紀子
大事なのはどんな独裁者も時を止められないといふことである
楯 正充
月末のこの冬空は青く澄み浅間山の稜線くつきり描く
田中和子
モノトーンの冬の通りに笑顔よぶ新店カフェのエディブルフラワー
武田瑞穂
燃え上がり緋色に映える一本紅葉一人見て居る庭の片隅
玉置勇夫
名寄市の低緯度オーロラの映像は夜の静寂をうす赤くして
菅野礼子
干し柿を見れば故郷を思ひ出す白い粉吹くあの干し柿を
村元綾子
信州の今年のりんごは不作なり一つ一つを味はひ食まむ
土田安子
曇天を破つて青き目のごとく空現れてふつと閉ぢゆく
中納久美代
孫二十歳成人祝ふ宴なりわれの米寿も祝はれてをり
古山信子
※「二十歳」に「はたち」のルビ
命とは戦ふことか是の世のど真ん中には戦争がある
三好幸治
看護師に「あなたの笑顔すてきね」と言はれ明日への希望いただく
岡田さかゑ
こんなにも生きられるとは奇跡かも息ができない過去に溺れて
潮 薫
生きることと詠うことは同じこと明るい歌を詠む前を向き
新開貴典
歌うまくなりたいならば師の曰くともかく作れとにかく詠へ
大島正克
それあれと二語で済ませる怠慢を国語辞典に詫びたき夜半
*はなのレイ
押し返し押し戻しつつアイロボがホモサピエンスを凌駕してゆく
小林恒夫
ゆつくりと飛行機雲のくづれゆくただ生きて来しひとりの空に
渡辺敏子
雪の来て雪に埋もるる愉悦あり六つの形の天よりの花
坂倉恵美子
※「潮音集Ⅰ」は同人の方の作品欄です。「探照燈」は前々月の各欄(今回は2月号)から、その月の担当者が注目した歌をあげコメントを加えた欄。ここでは歌のみ紹介します。
(編集委員・ブログ担当)