『潮音』6月号の「探照燈」琅玕集(後半)より
人として八十年の有限を生きてたましひ拡散収斂
坂部昌代
笑ふこと忘れてゐたり昨日けふ笑ふ難しさ考へてゐる
中川喜美子
虹の橋見下ろすとは思はざりき寄る八階の病院の窓
川崎喜美子
潮音は稲穂の露の表紙なり故郷の景色をさな日浮かぶ
福島いそ
滑らない冬靴にやうやく自信湧くそれでも若き吾はもどらず
大原 一
初釜のしだれ柳は茶室の美モネも柳に魅せられ植樹す
曽野誠子
人参が早やも芽をふく一月尽越冬の樽に緑葉わんさ
長谷川敬子
新雪に猫の足あと玄関の階段五段目そこで途絶える
伊藤典子
二つある扉のどちらを選ぶかは私が決めるそれがわが道
石山彰子
ぬひぐるみおもちやの猫に「おはやう」と「おやすみ」言ひてひとりの暮し
間 佐紀子
いそいそと規格外蜜柑をもらひにゆく吾はほんとに欲深きひと
北島邦夫
希み薄き冬の日にゐてみんなみに居りたる人の貌を思ふも
高木佳子
核を手に脅しにかかるジャイアンが何人もゐる地球に生きる
木村光雄
賀状返事は寒中見舞ひ「十二月二十日に妻が永眠しました」
平山公一
歩いた歩いて歩いて又歩いた無心にならうと思つて歩いた
鈴木隆夫
忘れてはゐないからこそ想ふらむ林檎の花白し共に見し花
今川美幸
※「琅玕集」は幹部同人とそれに次ぐ方々の欄です。「探照燈」は前々月の各欄(今回は4月号)から、その月の担当者が注目した歌をあげ、コメントを加えた欄。ここでは歌のみ紹介します。
*は現代仮名遣い。
(ブログ担当)