『潮音』8月号の「探照燈」潮音集Ⅱより。
過ぎ越しの春秋語り通じ合ふ友皆逝きて一人のさくら
佐野イツ
潮鳴りの寂しき余韻ひきづりて闇の奥処に名残雪ふる
佐賀幸子
新聞売りの僅かな儲けで鳥の餌買ふをぢさんは仙人なりき
星野邦夫
雨上り庭球ボールの飛沫にも春の兆しがきらりと光る
佐藤容子
平和憲法称へる国の武器輸出気になる裏の大きな矛盾
垣下博子
子が作りしひひなも共に現れて雛の箱の温き手触り
神田富恵
春くればしもやけ赤くかゆき手をさすりてくれし父の手思ふ
大友紀子
スマホ手に親子が指を滑らせて食後の居間は静まりてをり
安藤トワ
文明は人を滅ぼすと習ひしは八十年も前のことなり
小手森アキ子
原発の再稼働もはや止まらずや福島の惨思ひ歯痒し
金澤英雄
原発事故起りしは真実 起らぬを真実とせし敗訴文読む
薗部 晃
匂ひなく見えない恐怖の原発と今も戦ひゐる福島は
青柳正江
廃炉への長き道のり原発を安全安価ともてはやしきて
水口ミキ
停電にガスのコンロもストーブもありし我が家に子等集い来ぬ
*中野弘子