正直、もうダメだろうなと思いながら見ていた。
あれから、よくコロスケと話していた。
「何だか、痛々しいよね」
アテネオリンピックの候補に漏れてから、
それでも前向きな発言を 繰り返していた、高橋尚子のことだ。
一時のぽっちゃりが嘘のように、見るたびに絞られていく体は
「ベスト」とカノジョが繰り返すというコトバが空回りして、ヤツレているようにも見えた。
「これで引退だよね」
そう言いながら見ていた、東京国際マラソンだったけど。
30km付近から、カノジョの走りを見ていたら泣けてきてしまった。
「あの時から時間が止まってます」
止まってしまった、高橋尚子という時計。
この2年で、どれだけの人がカノジョの周りから離れたんだろう。
どれだけの人に『もう、高橋はダメだよね』って言われたんだろう。
それでもこの人は、諦めなかったんだなぁ。
止まった時間の場所から、逃げなかったんだなぁ。
35km付近でスパートをかけたカノジョは、そのまま笑顔でゴールした。
「何でお前が泣くんだよ」とコロスケは笑ったけど。
「今、どん底にいる人も、是非目標や夢を持って下さい。
1日24時間という時間は、全ての人に平等に与えられるチャンスの時間です
二度とない今日という日を楽しんでください」
カノジョの言葉を前に、コロスケが言った。
「純粋にスポーツで、勇気をとか元気もらったのって何時以来だろう」