THX 1138 | CAHIER DE CHOCOLAT

THX 1138

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1939年のSFドラマシリーズ『Buck Rogers(バック・ロジャース)』の予告編に続いて、『THX 1138』は始まる。実際の建物や街を使って撮影された映像に、ゴダールの『アルファヴィル』を思い出す。バック・ロジャースが1938年からタイムスリップした2440年は「高度に科学が発達した夢の世界」だった。『THX 1138』の「高度に技術が発達した」世界では、人々はアルファベットと数字の組み合わせで識別され、男性も女性も大人も子どももみな同じ白い服に坊主頭。銀色のトレイに乗った保存食のような食事を口にし、身体と精神は薬で維持されている。その薬も定められた量を超える摂取は違法になる。薬の摂取量だけでなく、性行為や仕事のシフトの変更など、ルールと違うことするとみな違反とされる。表情のない顔のロボット警察官がいつも見ている。室内はモニターで監視される。誰でもお互いを通報できるボックスも設置されている。管理社会は徹底的にムダを省いた効率社会であり、それ同時に、消費社会でもある。エスカレーターに乗ると、ショッピングモールを思わせるようなのどかなBGMをバックに、薬のお買い得情報のアナウンスが流れる。“ユニチャペル”と呼ばれる懺悔ブースの中で神は言う。「商品があることに感謝しよう。買いたまえ、もっと買いたまえ。そして幸せになりなさい」 社会の中の人間の価値もお金に換算される。人間は社会に消費される。ロボット警察官は「危害は加えない」、「大丈夫だ」、「心配することはない」、「君を助けたいんだ」と口々に言う。表情がないマスクの警官たち。個性を消去された人々が生きる世界の閉塞感。この作品のオリジナル版の劇場公開は1971年、ディレクターズカット版がリリースされたのは2004年。1971年でも2004年でもおそらく感じなかったであろう恐怖を、2020年に観た私は感じている。