ELECTRONIC MUSIC'S LAST TABOO | CAHIER DE CHOCOLAT

ELECTRONIC MUSIC'S LAST TABOO

[ORIGINAL]
DJS AND MENTAL HEALTH: ELECTRONIC MUSIC'S LAST TABOO
Dan Cole | 4 Aug 2014
https://www.djbroadcast.net/article/98861/djs-and-mental-health-electronic-musics-last-taboo



DJとメンタルヘルス:エレクトロニックミュージックの最後のタブー


ツアーでさまざまな場所に移動するパフォーマーであることの問題点は、実際のミュージシャンたちによってはあまり語られていないが、現代のカルチャーの中ではよく知られている。例えば、映画『Berlin Calling』の主人公・DJ Icarus (a.k.a. Paul Kkbrenner)はロックンロール的なライフスタイルを続けた結果、精神疾患が元となって他界する。

BERLIN CALLING - Film by HANNES STOEHR- The Official Trailer


あるいは、映画『It's All Gone Pete Tong』(フランキー・ワイルドの素晴らしき世界)のFrankie Wilde。彼は、中毒症状、聴力の喪失に苦しんだ。そしておそらく自己の喪失にも。

It's all Gone Pete Tong (2004) - Official Trailer


しかしこれら作りものの、映画のスクリーンの中にいるダンスミュージックの提供者たちを見てしかめっつらをするのは、むしろ幸せなことだといえる。現実世界でのメンタルヘルス問題は笑っていられることではない。今、私たちの4人にひとりが、人生のどこかしらの時点で、メンタルヘルス問題に悩まされているといわれている。しかしながら、DJコミュニティの中で、そのようなことについてオープンに話している人々はごくわずかである。それでは、さまざまな場所へと旅をし、そこでプレイするDJたちの間で、そういったことはどれくらい広がっているのだろうか。そして、なぜ最後のタブーだと言われているのだろうか。私たちはこの取り扱うのに非常に注意を要する問題について考えるために、経験豊富なDJ たち、Joost van BellenとJeremy P. Caulfieldと話をした。


[スターたちを狙っているもの]
Dom Phillips(ジャーナリスト)が2009年に出版した本『Superstar DJs Here We Go! (The Rise and Fall of the Superstar DJs)』の後半に、Sasha(イギリス人DJ)のことが書かれている。キャリアのピーク時、音楽業界からのリリースのプレッシャーとどのように苦闘していたかということについて、である。何枚かのシングルと数え切れないほどのリミックスで成功を収めたあと、彼はまだアルバムをリリースしていなかったが、それまでの作品と変わらず間違いないレコードがリリースされるところだった。「Muzik magazine(UKのダンスミュージック雑誌)はSashaにインタビューするためにニューヨークへと向かった。彼はとらえどころがない人だということがよくわかった」とPillipsは書いている。「結果的に、その特集には“The Lost Weekend”というタイトルがつけられた。Muzik magazineのスタッフがニューヨークでSashaに会ったとき、彼はSoho Grand Hotelの一室のベッドに半分埋もれて、片手にウォッカの2リットルボトル、もう一方の手にはゴミ箱を持って、振っていた」


Sashaのキャリアのこの時期にはお決まりだったロックンロール風の行動だと笑うこともできたかもしれない。しかし、その時の行動が健康な人のすることでないのは明らかだった。過密スケジュールとわーわー言ってくるお客からのプレッシャーにひどく打ちのめされ、Sashaの行動は、理性に欠ける、健康とは思えないものになっていた。こういった特異な行動パターンは音楽業界の多くのアーティストに見られるものでもある。プレッシャーがのしかかり、それに加えて、過労からくる疲れを感じるようになったとき。その時、精神の健康がむしばまれ始めるのである。これは特に、アルコールやドラッグの過剰摂取が手軽にできる状況であれば、さらに進行する。


[プレス、メディアでの告白]
DJたちは徐々に、プレスやメディアのインタビューでこれまでより率直に話すようになってきている。アーティストたちは、子どもの頃のこと、人間関係、ドラッグの使用、といった話はよくしている。しかし、取り組まなければならない精神的な問題について話すことはほとんどない。極めて個人的な話題なのである。しかし、その傾向に逆らうものもわずかながらいる。オランダ人DJ・Laidback Lukeはそのひとりである。


「僕はこれまでの人生で2回burnoutした(壊れてしまった)ことがある。1回目は20歳の時で、2回目は30歳の時だった」 Laidback Lukeは、オンラインマガジン OnlyTheBeatでこう打ち明けている。『My Son The DJ』というタイトルのミニドキュメンタリーでは、30歳の時に起こったことについてくわしく語っている。

MY SON THE DJ - AFL. 12: LAIDBACK LUKE


2010年、Laidback Lukeはすべてのオランダ人アーティストの中で最多(年間150)のブッキングを世界中で取った。しかし、その過密なツアースケジュールに離婚が重なり、2回目のburnoutとなってしまった。「バスに乗っていて、オフの時間を楽しんでいるところだった。その時、バスの中でとにかくめちゃくちゃに叫びたくなったんだ。おかしくなっていたからね」と彼は説明する。これが、肉体的に疲労しているだけでなく、何かもっと複雑なものに苦しんでいる人の行動であり、時に正しく理解されないこともあるが、いわゆる神経衰弱である。


私たちは、病気になったら医者にかかったり、薬を飲んだりするが、心の問題を治すのはもっとずっと大変である。ドイツ人DJ・Motor City Drum Ensembleは、最近のResident Advisorのドキュメンタリーで、自身の不安障害について、幅広く、正直に語っている。「ある時、かなり疲れたツアーの後、家にもどってきても、それは治まらなかった。 ―― ずっと不安な感じのままだった」と彼は率直に認めている。こういった現実が、健康状態の回復のために、DJたちが自らツアーの回数を減らすことにつながっている。

Between The Beats: Motor City Drum Ensemble



健康上の問題を認めようとする話ひとつに対して、認めていないDJたちの例は数え切れないほどある。アメリカのhouseプロデューサー・Gemini a.k.a. Spencer Kincyの悲劇を見てみよう。Luke Solomon(イギリス人DJ)はResident Advisor ExcahngeのPodcastで、Kincyの問題について語っている。そこで彼は、Kincyが、社会との縁を切る、決まった住みかを持たない、音楽業界の一部でなくなる、そういったことをどうやって決断したのか、そして彼は、もはやこの世の一部ですらいたくなくなった ―― それは彼の判断であり、その要因は精神疾患にあった、といったことを詳細に話している。これは極端な例だが、精神疾患がどれほど人の生活、人生に影響を及ぼすのかということを強調することになってはいる。しかし逆に、私たちの注意をひくようなことがなければ、それに気づかれないようにすることもかんたんにできてしまうのだ。


[Expander]
オークランドのMental Health Examiner(精神衛生検査医)のChristina Villarealは、有名人が彼らの仕事のさまざまな点で苦しむ精神的な問題についてThe Examiner(ニュースサイト)の記事で語っている。

- プライバシーがない:窒息しそうな環境が、その人らしくない行動をさせてしまう。異常な性的欲求、突発的な感情の爆発、薬物乱用など。

- 自己の喪失:ほんとうの自分を反映しているとは思えない選択をしてしまう。

- 終わりのない上昇志向:すでに成功しているのに、新しい課題やさらに成功する方法を常に追い求めてしまう。

- インポスター(詐欺師)症候群:自分はその仕事に対する資格がないのでは……と思い込み、不適当だと考えてしまう。

- スポットライトへのあくなき願望:永遠に有名人でいられるということを確認するために、極端な行動をしてしまう。アーティストによく見られる問題。

これらの問題にあてはまるDJもいると思われる。この記事の最初にあったように、ウエールズ人DJ・Sashaは『Xpander』(1999年にリリースされたアルバム)を出した頃、無理をしており、プライバシーがないことや自己を喪失してしまったことが、彼にとって巨大な重圧となっていたことは明らかである。


ツアーをするDJが気をつけるべき健康問題についての記事を書いているダンスミュージック・ジャーナリストの第一人者・Marcus Barnesは、ウェブサイトMeokoにもそういった記事を書いており、NHS(National Health Service/英国国民健康保険)の看護師長・Jacqui Jedrzejewskiに意見を求めている。腰や背中の痛み、耳鳴りなど、さまざまな身体的な症状に加えて、時差ボケを伴うツアーを日常的に行なうことは「身体的にも精神的にも、健康状態に幅広い影響を及ぼす」とBarnesは述べている。また、Jacqui Jedrzejewskiが「一般的にも、友人や世の中から孤立している、孤独である、誤解されている、などと感じることが原因で、うつ病になりやすくなる」と述べていることを受けて、うつ病の問題についても触れている。


私は、過剰な名声を得てしまった人を襲う危険について、アメリカの心理療法士、カウンセラーのGordon Shippeyと話をした。「いつも近くに熱狂的なファンがいることは問題を起こします。なぜスターたちがひどいふるまいをするのを目にするのだろうか、という疑問に対する答え、それは、ファン目線ではスターたちは間違ったことをしていることにはならないからなのです。ナルシズムの大部分を占めているのは過剰にふくれ上がった自信です。世間的に有名だと思われている人々のその感覚は、ファンの人たちによってさらに強くなっているのです」


[Pandageon]
(オランダ語。Panda Eyes、パンダ目。泣いた後、アイメイクが取れて目の周りが黒くなった状態のこと)
Joost van Bellenは、オランダのダンスミュージックの初期から皆が賞賛する伝説的なDJである。オランダのエレクトリックミュージックのムーブメントを牽引し、広めた人々のひとりとして、国中で知られている。現在54歳。彼は、アムステルダムのRoXY clubの設立も手伝っており、今のオランダのundergroundやtechnoの盛り上がりの土台を築いた人物だ。彼は最近、名声を得ることの危険についての本を書いた。フィクションの作品で、タイトルは『Pandageon』、ファッションモデルの視点で描かれている。

PANDAOGEN TRAILER


「成功は名声と幸せをもたらす。しかし、彼女は友人を失い、Holy Grail(聖杯)へと導く自分自身をも失ってしまう」van Bellenはこう説明する。「DJにも起こりうることだよ。実際、本の中にはDJも登場する。彼は鏡に映った僕の悪夢だね」


これまでJoost van Bellenは、過度にDJをすることが及ぼす健康への影響について語ったことはなかったが、私たちDJBroadcastは、状況全体についての彼の意見を聞くために、この影響力のあるDJに会いにいったのだ。


「不安障害やうつ病になったDJたちや、クラブやフェスでプレイしている最中でもパラノイア(偏執病)の症状が出るというDJを知っている」と彼は言う。「でも、彼らのほとんどはDJブースの中に戻ると、何ごともなかったかのように手をふってるよ」 これは否定のサインなのだろうか。DJたちはほんとうは楽しく過ごしていないということがお客にわかってしまうようなそぶりを見せたくないのだろうか。


van Bellenは、アムステルダムのTrouwでレギュラーイベントRauw nightsを主催しながら、今でも毎週2~3のショウをやっている。以前はもっとたくさんやっていたが、それが彼の精神の健康を損なわせることとなった。


「僕はそこにいて、そこにないものを見てたよ、疲労とクラブの照明のせいでね。正常に息をするのも難しくて、過呼吸を起こしたり、僕の周りの世界がメリーゴーランドのようにぐるぐる回るのを見たりしてた」


では、そういったことが起こっているとして、それがなぜそれほどまでにタブーという印象を与えるのだろうか。「めちゃくちゃな状態でも、DJはいつでもハッピーでないといけないんだ。素晴らしいパーティのふりをしないといけないんだよ」と彼は言う。DJであるということは、ある意味、役者になるということであり、すべてがfineなふりをしなければならないということなのだ。そしてついに、何もかもが狂ってしまう時がくる。


[ごまかしの仮面]
Jeremy Caulfieldは最近セミリタイアした。カナダ人DJ、プロデューサー、レーベルオーナーである彼は、半年前トロントからベルリンへ住まいを移した。tech-houseやtechnoのDJ仲間の中で、実力のあるDJとしての地位を築き上げたのちのことである。世紀の変わり目に設立された彼のレーベルDumb-UnitからはButaneやMike Shannonなどがリリースしている。


しかしながら、Caulfieldは自身のDJは中断したのである。最近父親になったことに加えて、妻と義理の弟と共にカフェ・バーAunt bennyをベルリンにオープンすることになり、その経営を引き受けたためである。それまでのようにDJをやり続けていたら、うまくはいかないだろうと彼は考えたのだ。彼は、父親であること、そして、ビジネスをやることに集中する道を選んだ。今でもたまにDJのブッキングを受けることがあるが、正当な理由があるときだけだ。彼が最初にDJを始めたときのような理由が。


Caulfieldのファンは、こうなることはわかっていたかもしれない。というのも、2009年のResident Advisorの記事で、彼はワールドツアーで疲労が増していることを話していたからだ。


「何年か前、最初のツアーではヨーロッパに行くことや色々な場所を訪れること、違った文化を吸収できることにわくわくしていたよ。でも近頃はそれほど好奇心いっぱいではないんだ。テレビを見ている時間が多くなったし、ずいぶん早い時間から塩をまぶしたピーナッツをつまみにしたり、街を眺めたりしてる。ギグの前にホテルのバーに行くこともあるよ。最初の輝きのようなものはなくなってきてるね」


多忙な生活から離れた今、Caulfieldは客観的な視点でふり返る。「おかしくなってきていたことを言うべきじゃなかったとは思うよ。でも自分がすり減っているのが見えていたんだ」と彼は説明する。「自分のやるべきことをやらなかったのは悔やんでいるけど、終わってほんとうに幸せだよ。たとえ何かもっとストレスを感じるようなことがあったとしてもね」


彼の経験について話をしていくと、Villarreal(検査医)が述べていたような“自己の喪失”に関する話題になることは避けられなかった。人に会う時は常に「DJらしくふるまう」必要があることについて、「この仮面をかぶり続けなければならなかったら、ある程度の人格障害のようなものを持つようになるよ」とCaulfieldは言う。


「リタイアするとき、ソーシャルメディアのアカウントは全部削除したんだ」とCaulfiledは続ける。「ナルシストレベルまでいくともう病気みたいなものだからね。だからFacebookのアカウントを削除することで、リアルの自分の存在を確認することにもなったし、僕の健康のためには一番良かったことのひとつだよ」


「ナルシズムはDJシーンの構造の内部にからみついてる。DJとして、若いお客さんに自分を投影しているところもあるし、人々とのそういった接触がなくなってくると、もはや何がいいのか、何がかっこいいのか、自分自身の本能を信じることができなくなってくるんだ。そして、その時が少し距離を置かなければならないときだね」


自分自身を売り込み、自分の作品を宣伝してきたあと、どの時点で、自ら作り続けてきたその誇大広告を自分でも信じてしまうようになるのだろうか。ソーシャルメディアはDJのエゴを巨大にふくらませてしまうのである。DJたちが何か特におもしろいことをいつも言ったりするわけではなくても、だ。


[何をしでかすかわからない存在]
Bill Hicks(アメリカのスタンダップコメディアン)の有名なことばに「私は、私のロックスターに死んでもらいたいと思っている」というものがある。奇妙なことに、実際、私たちは自分のアイドルが苦しんでいるところを見たいと思ったりするのだ。有名人とメディアが私たちにこびて支持を得ようとするから、そうなるのである。ドラッグでいかれている好きなミュージシャンが、きれいに足を洗ったりしたときには、私たちの間で共通の「ためいき」がもれる。それは、そのミュージシャンの音楽のクオリティを心配してのことである。あるいは、大好きなDJがお酒を飲まないという記事を読んだときには、肩を落としたりする。彼らが自分たちと同じようにだめな人間でなかったら、どれくらい自分と結びつけて考えられるものだろうかと思うのだ。


私たちは、ちょっと変わっているような人たちに自然とひきつけられてしまうところがある。DJ界でいうと、Sven Väths、Squarepushers、deadmau5など。こういった、何をするかわからないような人物は、現実的な世界ではあまり注目されなかったり、理解されなかったりすることもある。では、何が彼らのアートを素晴らしいものにしているのだろうか。


「アーティストでいるには、精神的に健康である必要はないんだよ」とCaulfieldは言う。「自殺したり、周りの人たちを傷つけたりしないってことさえ確かであればね」 Caulfieldは2012年のアメリカ人DJ・Danny Tenagliaの“breakdown(神経衰弱)”の話を例に出した。彼はDJをやめることをソーシャルメディアで発表したのだ。インターネット上で騒いでいる間、自分がどれほど貧しいか(「僕が金持ちだと思っている人が多いだろうけど、そうでないことを断言する」)、ニューヨークのロフトを出て、引っ越しをするつもりだということなど、グチのようなことばを並べ立てた。もちろん、引っ越しはなかったし、彼の引退も長くは続かなかった。しかし、インターネットを通して公開されたbreakdownは確かにあった。 ―― 私たちみんなに見えるところに。


アートのどの分野においても、神経症を患って、壊れたようになってしまう、そんな風変わりに思える人たちに私たちはひきつけられるものだ。Vincent van Gogh(画家)、Daniel Day Lewis(俳優)、Kurt Cobain(ミュージシャン)などがその例だろう。Joost van Bellenは言う。「良いDJであるにはちょっとねじれてないといけないようだね」


[最後のタブー]
私たちの好きなDJたちが、これまでに挙げた、理性の喪失、依存、うつ病などの症状を示す可能性がありそうなのは明らかであるにもかかわらず、すぐそばにあるこの話題は見て見ぬふりをされてきたのである。


この記事のために情報を探している間、多くのアーティストに意見を求めて声をかけたが、その全員がコメントすることを断った。これは、それほど驚くことではない。しかし、Marcus BarnesがMeokoに書いた記事を読んでいた時に、Elite Force a.k.a. Simon Shackletonがこうした話について深いところまで語っているのを見つけた。そこで私は、この状況についての意見を聞くために、彼に連絡を取ることにした。「こういったことに関しては、たいていみんなとてもガードが固いと思うよ」と彼は言った。「DJっていう仕事には幻想やごまかしのようなものがたくさんあるからね。正直に答えたら、たぶん、たくさんの人たちに弱いところを見られてしまうことになるんだ」


再び、人々に弱さを見せることを避けるという話になった。Caulfieldも私たちとの会話の中でこのことについて触れていた。「みんな、がっかりな人にはなりたくないんだ」と彼は説明した。「近頃は、人々をがっかりさせるようなことがあったら、DJたちはみんな逃げて隠れてしまう。これはドラッグの使用にも関連していることだね」


トラブルをかかえたDJというイメージは、DJとしてのキャリアにもダメージを与える。それが、DJたちがそういった話題に触れないようにしている理由だとCaulfieldは考える。「ダンスミュージックの合法的な面では、今動きが出てきている。というのも、大きなお金が動いて、ビジネスが成長していて、そうしたら何か弱点があるのは良くないと考えられるようになるからね。そういう弱点を利用する方法を探す人もいるものだから」


こうしたあらゆることがソーシャルメディアの複雑にこみ入った情報網を通して結びついている、とCaulfieldは説明する。いったんソーシャルメディアでオープンにすると、メッセージは音楽のコミュニティをものすごい勢いで広がっていく。Tenagliaの例のように。


[ダブーを破る]
DJコミュニティは、薬物乱用、乱交、その他ツアー中の不祥事など、良くない慣習について話すことにずいぶんとオープンになってきている。メンタルヘルス問題を取り囲むタブーを破る唯一の方法は、審判を下されるようなことがない環境で、そういった問題について自由に話すことである。エレクトロニックミュージックシーンはその準備ができているだろうか。オープンで寛大、そして自由であることから生まれたこのシーンが、さらなるチャレンジを与えられた参加者たちの必要としているものもまた、喜んで受け入れてくれることを願う。


おごった体質やあらゆる実務的な面で男性社会であることも、今後対処される必要がある要素である。DJたちがパーティで大騒ぎしたり、安易な生活を送ったりすることを、私たちも期待してはいけない。彼らがもっとオープンで正直であることができれば、私たち自身も新鮮な見方で現実というものにアプローチできるかもしれないのだ。私たちが特に取り上げたい人に、Seth Troxler(アメリカ人DJ)がいる。良くないものとの関係を断ち切ることで起こってくる問題について、極めて率直に語ったResident Advisorでのインタビューから、この問題をまとめたものにさらに内容をつけ加えたRBMA(Red Bull Music Academy)での講義まで、Troxlerは現実世界での問題を話し合うことに関して、DJコミュニティの中の啓発者であり続けている。

Between The Beats: Seth Troxler



また、彼らの音楽を楽しみにしているのだとDJたちに伝えること、そういったことばが、私たちが憧れ、尊敬するDJたちにどんな影響があるのかということを、私たちが理解することも必要である。私たちは、ある時点で、「Sasha、『Xpander』はほんとにかっこよかったよ。次のアルバムが出るかどうかは今はどっちでもいいんだ、自分らしくいてくれたらいいんだよ」ということばをかけるべきだったのだ。


外に出て、パーティに行って、踊って、というのは一時的に現実から離れようとする現実逃避の形である。しかし、DJたちはどうやって現実逃避したらいいのだろうか。彼らが休息や気晴らしを必要としていたら、どうなるのだろうか。DJとドラッグの関係が切れないのも不思議ではない。これは警告のサインなのである。私たちはこの問題をもっと深刻なものとしてとらえなければならない。






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たまたま出会った記事なのですが、これはいつもの「ただ自分が読みたい訳したい」だけではなく、誰かひとりでも読んでくれる人がいてくれたらいいな、と思って訳しました。とても良い記事です。最後のところ、私は泣きそうになってしまいました。DJに限らず、私たちが楽しかったり、快適だったりするときには必ず、「泳いでいる白鳥の水面下」のような状態の人たちがそこにいます。もちろんそれが彼らにとってすべて苦痛というわけではないでしょうし、楽しく感じていることもあるだろうと思います。ほんとうのことは当人にしかわからないことですが、そういった水面下の人に見せたくない部分がある、ということを心のどこかに置いておくだけでも違うんじゃないかと思うのです。そう、この「人に見せたくない」と今まさに自分でも書いた、この心理が過剰にふくらんだものが「最後のタブー」になってしまったのでしょうね。大きくふくらみ過ぎて、個人の判断ではどうしようもなくなってしまったのかもしれません。でも、そのタブーを変えようとする動きもあるようなので、きちんと知って、私たちお客だけでなく、彼らにも「ほんとうに」楽しんでもらえるようにするのが、楽しくさせてもらっている私たちができるせめてものお礼なのでは。手段があれば、感謝なり感想なりをできる限りアーティストの人たちに伝えたいというのは私もいつも思っていることです。SNSについては、何かしらの情報やメッセージを受け取る方からしたら、とっても嬉しいもの。リアルタイムの感覚がもうほんとに貴重だし、Likeしたり、時には返信やコメントしたり、とこちらの小さな意思表示ができるところもありがたい。そういうところは現代のテクノロジーの素晴らしさ。もはやなかったら寂しすぎる(泣) ただ、アーティストの人はそれでなくてもノープライバシーになりがちなので、あんまりオープンすぎるのもツラくなってくるだろうから、まあほどほどに……がいいんでしょうね。しかし、この記事でDJたちによって語られていることばのいくつかに何度もどきっとしました。特にコールフィールドさんの話にはひやりとするものがありました。この記事にも少しRAのドキュメンタリーのことが載っていますが、ダニロもしばらくお休みをしていた期間があったし、そのままもどってこなかった可能性もゼロではないわけで。それを考えると、ほんと今彼の動きを追えているのがほんと幸せだなあと思う。ダニロ、音楽に戻ってきてくれてほんとにありがとう~。そうでなかったら私はあなたの音楽に出会えていなかったもの~。もちろん彼だけじゃなく、エンタテインメントで元気や感動をくれている大好きな人たちにはいっぱいありがとうを言いたい!です。



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