――私は、青い血が欲しかった!
 かつてスフィーダに在籍していたベテランの選手が、川邊GM(当時川邊監督)に言っていた……というのを人づてに聞いた。
 ――私には……青い血が流れています……。
 2019年5月25日、なでしこリーグ100試合達成のセレモニーが行われた日のヒロインインタビューにて長﨑茜がこう言っていた。
 
 スフィーダ世田谷FCは、主にトップチームとアカデミー(中学生年代のジュニアユース、高校生年代のユース)で構成されている。小学生以下のU-12サッカースクールもあるけれど、正式に所属するには小学六年生対象のセレクションをパスして――という流れになるのだと思う。長﨑茜は中学一年生だった2007年からから17シーズン在籍した生え抜き選手である。2011年にスフィーダがチャレンジリーグに参入した時の長﨑は高校二年生、その年にはトップチームのお姉さん方に混ざり開幕戦でスタメンを張っていた。この時のスフィーダは創設十一年目、基本的に中学生から上がって来る選手が多かった為、青の遺伝子を持った選手が多かったはずだ。高卒で入団した森仁美(今シーズン伊賀にて引退)や、震災による東京電力マリーゼの活動休止でスフィーダに身を寄せた高橋奈々(2018年パルセイロにて引退)などの存在もあったけれど、半分以上はアカデミー育ちの青い戦士たちだったと思われる。冒頭の「青い血」というのはそんなアカデミー育ちの選手によく使われる表現だ。「青の遺伝子」だなんて言い回しもあったと思う。創設者でもあり長いことトップチームの監督を務めた川邊健一GMが、大卒選手や外部からの移籍選手よりは、やはりどこかアカデミー育ちを可愛がる傾向にある(諸説あります)ということから、冒頭のレジェンド級の選手が「青い血が欲しかった」という言葉を残したのだろうか――というのはあくまで私の想像の範囲内のことであり、真実はその場に居た人間にしか分からない。持たざる者にしか分からないこと、感じ得ないこと――というのもあるのかもしれない。
 
 2001年のクラブ創設時の中学一年生だった川嶋珠生(2014年引退→現スフィーダコーチや)田中麻里菜(2016年引退)またその二学年下の福原菜緒(2016年引退)、更に二学年下の田中真理子(現ジェフL)あたりがスフィーダのアカデミー育ち第一世代だとするのなら、長﨑茜、石野妃芽佳、薄田春果(現ゼルビア)、林玲花(今シーズンゼルビアにて引退)、村上朱音(現愛媛FCL)たちは第二世代だと、私は勝手に考えている。第二世代あたりからは、大卒選手や他チームから移籍してきた経験豊富な選手も増えてきた為、チーム内での生き残りが非常に難しく、トップチームに上がってすぐにチームの主力となる選手と、上がったもののなかなかベンチにも入れず出場機会に恵まれないままチームを去る選手やサッカーを辞める選手と大きく明暗が分かれるように思える。高校生からトップチームに籍を置いていた長﨑は大学受験もあって一時は週一での参加へと縮小したり、ほぼ一年活動を休止したり、それに伴いかつて付けていた背番号17も二年ほど他の選手に譲るような形になったこともあったけれど、挫折や逆境にも負けずに逞しく生き残り、スフィーダ世田谷FCのなでしこリーグ二部初優勝、一部初優勝に大きく貢献した、間違いなく第二世代のレジェンド選手だ。
 
 長﨑のこれまでの17シーズンを見ていきたい――と言いたいところだが、残念ながらスフィーダ公式HPには東京都一部リーグからチャレンジリーグに昇格した2011年の記録しか残っていない。いつもお世話になるnakataniさんのHPも彼がサポーターになった2014年からのものだったので、2011年から2013年は私の手動集計によるものである。
 
【背番号 17→30→17→11 長﨑茜 180試合/44ゴール】
 
▼背番号17時代
サッカー2011:8試合 / 2ゴール
※公式HPには当時の監督のレポートと試合によってはスタメン写真が掲載されているのみで公式記録なし。公式が発表している総出場試合数が180なのでそこから逆算して8試合だと思われる。
サッカー2012:6試合 / 0ゴール(高三の年:おそらく途中から受験準備でクラブを休んでいたと思われる。おそらく一般受験で真面目に勉学に励んでいた長﨑は、普段の天然っぽい雰囲気とは打って変わり、薄田春果に勉強を教える時は非常にスパルタだった――と当時の選手ブログで永田真耶が語っている)
 
▼背番号30時代(2013は臼井理恵 2014は橘木友里恵が背番号17を付ける)
サッカー2013:4試合 / 2ゴール(8/4の第16節にて復帰、スタメン復帰は9/15の第21節)
サッカー2014:19試合 / 2ゴール
 
▼背番号17時代②(一度スフィーダを退団しかけた橘木が27番になった為なのか長﨑に17番が戻される)
サッカー2015:15試合 / 0ゴール(先発は2試合と公式戦の出場にはあまり恵まれなかったものの和歌山国体にて大活躍、準優勝に貢献、得点ランキング第二位に輝いた
サッカー2016:5試合 / 0ゴール(皇后杯3回戦にて、なでしこ1部のベガルタレディースから1点もぎ取った唯一のスフィーダ戦士
サッカー2017:17試合 / 11ゴール
 
▼背番号11時代(2017年に引退した永田真耶が七年間付けた11番を長﨑が譲り受ける。どうやら永田のご指名だった模様)
サッカー2018:17試合 / 4ゴール
サッカー2019:18試合 / 4ゴール(5/19の第9節にて100試合達成
サッカー2020:17試合 / 2ゴール
サッカー2021:22試合 / 8ゴール
サッカー2022:21試合 / 3ゴール(3/27の第2節にて150試合達成
サッカー2023:11試合 / 6ゴール(4/6のトレーニングで骨折、全治12週間、7/2の第15節で復帰以来怒涛の8試合5ゴール)
 
 ▼いつもの通り2014~2023の記録は下記サイトを参照にさせて頂きました。
 
 私がスフィーダの応援を始めた2015年、長﨑の出場試合数は27試合中15試合、そのうちスタメンは僅か2試合だった。けれど前述の永田真耶のブログや川邊GMのブログではやたらと長﨑を「ミラクル茜は本当に何をするか分からない、人とは全然違うリズムだから動きが読めない、奇跡を起こす」などと絶賛する声が目立っていた。普段のリーグ戦ではそんなに長いことピッチに居る姿を見られないので、何がそんなにミラクルなのだろう――そんな疑問ばかりが募っていた。そんな長﨑の転換期は「紀の国わかやま国体」に召集された九月末のこと。スフィーダでは二度目の17番を付けていた長﨑はこの時東京代表ユニフォームでは11番を背負っていた。とにかくFWとして大活躍、四日連続のハードな日程の中で全試合に出場した長﨑は三得点を決め、東京代表としては準優勝、個人としては得点ランキング二位の栄光と共に戻って来た。
 
▼長﨑が国体から戻って最初のホームゲームで掲げた手作りメッセージ幕(我が家で布を広げてビニールテープペタペタして作成しました)
 
 2015年は、ホームゲームの後、チームの勝敗にかかわらず選手たちが入口でサポーターたちの見送りをするというルーティーンがあった。一度も長﨑と喋ったことが無かった私は、帰り際にたまたま長﨑と目が合い、コミュ障のくせに思わず自分から声を発した。
「国体お疲れ様!」
「ありがとうございます~!」
 しまった……この後の言葉が何も出て来ない――そう思った。今ならば「ネットの速報で試合追い掛けてたよ」とか「もうちょっとで得点王だったね」とか色々言えたと思うのだが、この時の私はこれ以上何も言えなかった。けれど、とにかく目の前の長﨑が嬉しそうにキラキラとした笑顔を浮かべていて、それだけで声を掛けて良かった――と私も胸がポカポカと温かくなったのを覚えている。
 
 国体での活躍があったものの、2016年は監督の交代、シーズン途中での異例の新監督の解任など色々あり、それが関係していたかは定かではないが、長﨑の出場機会は増えるどころか大きく減少した。大学四年生の年だった為、卒論だとか教育実習だとかそんな事情もあったかもしれない(当時エフエム世田谷で毎週日曜に放送されていたスフィーダ世田谷応援番組で、長﨑が「教育学部なので授業で塗り絵をしたりします」と自身の学生生活について語っていた)けれど皇后杯三回戦、挑戦者として臨んだベガルタ仙台レディース(当時)との試合で長﨑の叩き込んだ一点のインパクトがあまりに強くて、これがきっとこれからのスフィーダを担う選手だ、間違いなく長﨑茜の時代が来る、あの藤枝の地でそう強く思った。そしてその翌年、長﨑は本当にスフィーダを代表する選手へと成長した。
 前述した2011年から2023年の記録を見ても、2017年の数字が飛び抜けているのは明確だろう。初めて他のチームからの移籍という形でスフィーダに入団し、スフィーダで第一号となる「なでしこリーグ100試合出場」を達成した永田真耶が長﨑に背番号11を託して引退したのは、この年の長﨑の背中を見て、安心して任せられる――なんて思ったところもあるのかもしれない。
 
▼2020年までユニフォームサプライヤーを務めたVINCERE JAPANさんに感謝を籠めて描いた歴代ユニのイラスト
どうしても永田→長﨑へのバトンタッチを描きたくて2017と2018のモデルをこの二人にしました。
 
 2018年からはゴール数が減少しているけれど、これはポジションの変動によるもので長﨑がスフィーダに欠かせない選手だったことに変わりはない。2018年は山本菜桜美、2019年からは大竹麻友、2020年からは大竹と堀江美月と、最前列を他の選手に任せることにより中盤でゲームをコントロールし、あわよくば直接ゴールを叩き込むという今の長﨑茜の形が見えてきたように感じる。
 
▼2018年第4節 異例の三人まとめてのヒロインインタビューの中心に立つ長﨑(向かって左は倉持杏子、右が大久保萌)
 
 
 そして2019年の5月、長﨑はスフィーダで七人目となる「リーグ通算100試合」を達成した。
 
▼100試合記念フォトフレーム


▼2019年のリーグ100試合達成の際のものはこちらの過去ブログをどうぞ
【ショコラブログ 2019/5/27】引き継がれる青の遺伝子 世田谷のミラクルガール 長﨑茜

 

▼このブルーシート幕は、声出しサポーターにて横断幕の掲示時間を使って頑張って作りました(文字数の関係で「茜」のみ)

 
▼同じくアカデミー出身の片寄優(2020年引退)と共に
 
▼おそらくユキ・ラインハートさんから「ご両親に向けて一言」とマイクを向けられた瞬間
 
▼声出しサポーター有志から贈られた100試合記念プレゼントのスニーカー
 
 
 このスニーカー贈呈の際、思わず掛けてしまった言葉がある。
「次は150試合ね」
「はいっ!」
 100試合をようやく達成した選手相手に簡単に「150試合ね」なんて言ったのは軽率だった気がする――と思ったものの、長﨑は眩しい笑顔で元気よく返事をしてくれた。実際それから三年以内に150試合を達成してくれた。もし2023シーズンの怪我が無ければその空白の11試合も普通にスタメンで出場し、今シーズン終了時点で通算191試合だったのではないかと思ってしまうが、そういうたられば話はここではもうナシにしようと思う。
 実際まだまだやれるとサポーターは思う。せめてあと一年続けて200試合達成してからでも――そう思うサポーターも少なくはない。けれど、長﨑が今シーズンでやりきったと、ここで終止符を打とうと、そう決めたのならばそれが全てだと思う。引退コメントの最後に、長﨑はこう書いている。
 
 ――最後になりますが、私はアカデミー出身なので、これから先、沢山のアカデミーの選手たちがスフィーダの歴史をつくっていくのが楽しみです。これからはスフィーダファンの長﨑茜として試合観戦で皆様と一緒に応援するのを楽しみにしています!Go SFIDA!
  
 長﨑の最後の試合、皇后杯五回戦、女王ベレーザとの死闘、この時のスタメン11人のうちアカデミー出身者は長﨑、石野妃芽佳、柏原美羽の3人だ。ベンチメンバーを含めると18人のうち長﨑、石野、柏原、石川愛紘、戸田歩、田口茉亜紗、川邊汐夏、荒川結乃花の8人となる。一方、相手のベレーザは最後にピッチに立っていた11人のうち藤野あおばを除いた10人が全員下部組織のメニーナ出身の選手だ。アカデミー出身の長﨑として、これから先のスフィーダがもっともっと強くなる為には育成世代からの徹底的な指導と連携が必要だと言いたかったのかもしれない。
 これで私がサポーターになってからずっとスフィーダを支えてきた選手は石野妃芽佳たった一人になってしまった。奇しくも中学までスフィーダで育ち、大卒で二年ほどスフィーダのトップチームに所属した中村ゆしかが2024シーズンから戻っては来るけれど、ずっと私の見つめていたピッチに立っていたのは石野だけになる。正直とても寂しくなる。茜チャントを歌えなくなるのがとても寂しい。「もうガールって年じゃないわよ 笑」「もうアラサーよ 笑」なんて辛口な茜ママのコメントがとても微笑ましかった長﨑茜の個人チャントだ。
 ――あかねーあかねーながーさーきー! せたがーやのミラクルガール!
 (爆風スランプのRunner「走る走る 俺たち 流れる汗もそのままに」)
 
 世田谷のミラクルガールは、永遠のガールのままスフィーダから羽ばたいていく。けれどサポーターは忘れない、スフィーダ世田谷FCのレジェンド選手を、チャレンジリーグ参入からなでしこリーグ2部優勝、1部優勝までずっとスフィーダを支えてきた蒼き時代の申し子を。 
 
 
 最後に……
 
▼あかにゃんの最後の年にこのゲーフラを描かせて頂いたこと、本当に本当に幸せでした。
 
 
▼元々私のゲーフラ案はこっちでしたが、ウケ狙いだった上の絵柄が採用されました 笑
 
 大卒後(株)東京組様で働いていたあかにゃんがいつの間に(株)ドトールコーヒー様所属になっていたことを知り、そこから「コーヒーはもう絶対ドトール様」とドトール様激推しになりました! 今後あかにゃんがドトール様に残るかどうかは分かりませんが、ドトール様がスフィーダのスポンサー様であることは変わらないし、宇内彩来も所属していることだし、今後もドトール様推しなのは変わりません。これからも外でコーヒーが飲みたくなったら、あかにゃんを思い出してドトール様に入ろうと思います。
 本当に本当にありがとう。あかにゃんの笑顔と頼もしいドリブルと、ゴールを決めた後の可愛いパフォーマンスと、ちょっと気が強くてイエローカード貰っちゃうところも、気さくなご両親も含めて、長﨑家全員が推しでした!!!!