後半71分、ずっと元気にテンション高く応援していてくれたアカデミーの選手たちの声が一際大きくなった。ピッチ上では1-3と2点ビハインドのスフィーダイレブンがセレッソレディース相手に苦戦を強いられてる最中で、ゴールが決まったわけでも、FKやCKを獲得した場面でも何でもない。一体何が起きたのだろうと彼女たちの視線の先を追うと、アップエリアからベンチへと走って青いユニフォームに袖を通す#23 伊藤綾花の姿があった。どうやら二枚目の交代カードで伊藤が呼ばれたらしい。

 ――あ、なるほどね。

 思わず去年の7/15のカップ戦(ホームちふれ戦@味の素スタジアム西競技場、現在のAGFフィールド)を思い出した。あの時もアカデミーの子たちが、途中交代で出て来た#14 片寄優(当時高3 背番号#30でユースとトップの二種登録)と#7 犛山菜々恵(ユース時代からの二種登録を経て、当時トップチーム一年目、そのままそのシーズン終了後に引退)に大興奮して、チャントにオリジナルの合いの手を加え盛り上げてくれたんだった。

 

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【ショコラブログ20180717】チャントはユースの子たちによって日々進化している!

 

 伊藤綾花は今年の新入団選手、スフィーダのジュニアユース、ユースを経て、トップチームに昇格したばかりの……169センチ、期待の大型フォワードだ。高校三年生の子たちにとっては一歳違い、二年生の子たちだって一緒に練習してきた先輩であるわけで、そんな選手がベンチに入り、トップチームの試合に出てるところを目の前で観れるというのはとてもとても大きなことなのだろう。

 

 オーオーオーオーオー イトウアヤカ

 オーオーオーオーオー イトウアヤカ

 

 オーオーオーオーオー イトウアヤカ

 オーオーオーオーオー イトウアヤカ

 

 ナオトインティライミの"The World is ours!"の替え歌である伊藤のチャントが西が丘に響き渡る。飛んで、跳ねて、身体全体で歌って喜ぶアカデミーたち。そんな彼女たちの様子を見て、コールリーダーは通常1回しか歌わない交代時の選手チャントを二回まわした。この日の彼女たちの興奮は、去年の7月の片寄&うっしーフィーバーを超えていたようにも思う。伊藤がちょっとボールに触れるだけで、「きゃーーーーー!」と嬉しい悲鳴が上がるのだ。思わず 「すげェな伊藤、リーチじゃん!」と声出しメンバーも大爆笑していたほどだ。

 

※ラグビー日本代表主将のリーチマイケルが攻撃中にボールを持つと場内から「リーチ―!」と大歓声がこだまする。観客の中から自然発生したものらしく、予選プール第二戦のアイルランド戦あたりから生まれたらしいとかなんとか。(ちなみに我が家は第三戦のサモア戦を豊田スタジアムで観ましたがその時は特に確認出来ませんでした)

 

 試合はそのまま1-3で終了。愛媛とオルカの結果次第でセレッソの優勝の可能性もあった試合は、同試合が1-1で引き分けとなった為、愛媛は首位をキープ、そのまま優勝、一部昇格を決めた。言い方は悪いが、スフィーダは既に二部残留を決めていて、同時に一部への自動昇格も入替戦出場の可能性も消えていた、得る者も失うものも何もない試合である。通常、我々はそれを消化試合と呼ぶ。しかし、#8 熊谷汐華にとってはなでしこリーグ初得点を決めた試合であり、もしかしたらある選手にとってはスフィーダのユニフォームに袖を通して戦う最後の試合であったかもしれない、ある選手にとってはスフィーダファミリーとのお別れとなる最後の試合だったかもしれない……そう思うと、選手にとっての消化試合なんて一試合も無いかもしれないと今改めて振り返れば……そう思うのだ。

 

 アカデミーのある少女が言った。

 ――「愛してるスフィーダ」は歌わないんですか?

 あるサポーターが返した。

 ――あれはね……勝った時にしか歌わないからねェ……。

 なんとなく寂しげな雰囲気が漂うゴール裏、サポ仲間が口々に言う。

 ――「愛してるスフィーダ」好きなの?

 ――歌いたい?

 ――今日応援頑張ってくれたし、最後だし、じゃあチームコールの後にやろう!!

 

 コールリーダーのその一言でその場でのやり取りは終わり、ゴール裏に選手たちが駆け寄って来た。

 

 

 

 

 最終節ということもあり、いつもより長めだったように思われるキャプテンの#3 原志帆の挨拶。 挨拶の最後に……向かって右斜め上のアカデミーの子たちに視線を向けて、あたたかく、がむしゃらで一生懸命な応援に大きな感謝の気持ちを示した。

 

 ――スフィーダ世田谷! (ダンダンダダダン)

 スフィーダ世田谷! (ダンダンダダダン)

 スフィーダ世田谷! (ダンダンダダダン)

 

 いつもならばドローや負け試合の後はこのチームコールを終えるか終えないかのタイミングで、選手たちはお辞儀をしてささっとベンチに戻って行く。けれどこの日は声出しサポとアカデミーの子たち、そしてスタンドのサポーターからのハリセンや手拍子も合わさって、異例の「愛してるスフィーダ」大合唱となった。

 

 ――愛してるスフィーダ ラララララ―ラ! 愛してるスフィーダ ラララララーラ! 愛してるスフィーダ ララーラ―ララララーラー……

 (原曲: 君の瞳に恋してる I love you baby~のところから)

 

 私自身は……嬉しそうに歌っているアカデミーの子たちの様子ばかり見ていて、正面の選手たちの表情まで見る余裕が無かったのだけど、それまで普通にしていたのに「愛してるスフィーダ」が始まったとたんに涙ぐみ始めた選手も居たと後から聞いた。勿論歌声の主の数だけスフィーダへの想いがあるとは思うけれど、決して今シーズンの「リーグ七位」という成績に満足してシーズンの閉幕を歓喜で称えているわけではないということはきっと選手たちも分かっているだろう。

 

「もっと勝ちたかった」

「一位や二位でリーグを終えてこのチャントを聞きたかった」

「あの時あの試合のあの瞬間、きっと本当はもっとやれた」 

「サポーターや、いつも試合運営を朝早くからしてくれてるアカデミーの子たちと一緒に喜んで終わりたかった」

 

 なんだって構わない。

 この日の涙の理由を、どうか次の試合に繋げて欲しい。

 プラスの力に変えて、光を捜して行って欲しいと思う。

 

 けれどまずは……台風15号と19号による順延で、11日間で4試合という過酷な連戦スケジュールをよくこなしたと思う。よく走ったと思う。心からお疲れ様と拍手を送りたい。

 

 横断幕を片付け、それぞれの荷物を片付け、今シーズンもう会えないだろう人たちに挨拶をして、スタジアムを後にする。正面入り口の物販コーナーを片付けているアカデミーの子たちに「お疲れ様~」「ありがとうね~」と声を掛けながら階段を降りると、高校生らしき少女がハッキリと大きな声で言ってくれた。

 

「今までありがとうございました!」

 

 ――ん? 今まで?

 いやいや、最終節だからってそんな大げさな~(笑)

 

 私は最初はその言葉の意味が分からなかった。


 あとになってサポ仲間がこうも言っていた。

 ――「運営も今日で最後かぁ……泣きそう」って言ってた子居たよ。

 

 ああそうだ、そうだったんだ。今日一緒に応援してくれてた子たち、中学生と高校生と混ざってたのか、高校生だけだったのか分からないけど、あの中に居た高校三年生は今日が最後のホームゲーム運営だったんだ。これまで特に意識したことが無かったせいもあるだろう、もしかしたら年によってはホーム最終戦の時に練習試合やアウェイで公式戦があった子たちも居たのかもしれない、とにかく「今日この子たちとお別れなんだな」と思ったのはこの五年でこの時が初めてだった。

 

 キックオフ前、普段ならグレーの練習着で私たちの横に並ぶ彼女たちが、自分たちの試合用のユニフォームを着ていたことを思い出した。去年の西が丘でのカップ戦決勝戦で一度だけ見たことがあるものの、普段の運営なら絶対に着ることがない、自分達の公式戦のユニフォームだ。

 ――最終節だからかな? 一緒にゴール裏を青で埋めてくれるんだね!

 その時はそんな風にしか思わなかった。

 

 今日同点に追い付かれてからは終始ビハインドで劣勢だったのに応援の声が小さくなることなく、むしろいつも以上に元気に楽しく全力で応援してくれてたことも思い出した。あの時、伊藤綾花に向けられたリーチコールならぬ綾花コールには……特別な意味があったのだ。最後の「愛してるスフィーダ」も……本当に最後の「愛してるスフィーダ」になったんだ。この試合は消化試合でもなんでもなく……彼女たちにとって特別な、最後のホームゲームだったんだ。

 

 ジュニアユース、ユースと中高六年間をスフィーダで過ごして、きっぱりサッカーから離れる子も居る。

 大学に進んで大学サッカーの世界に入っていく子も居る。

 まだ発表はされてないけれど……来年度トップに昇格する子もあの中に居るのかもしれない。

 トップチームに入ることが叶わずに……下のカテゴリの別のチームに入団が決まっている子も居るのかもしれない。

 

 彼女たちにとっての今日の……ピッチでの伊藤綾花は、彼女たちの目標であり、もしかしたら選んでいたかもしれない進路の先に見える一筋の光だったり、ひょっとしたら叶えることが出来なかった夢の形だったりしたんだろう。ユース出身で現在トップで活躍する選手は#2 戸田歩や#5柏原美羽など他にも居るけれど、一番年が近い伊藤綾花が彼女たちにとって最も身近だったのは言うまでもない。それがあの時の綾花コール、綾花フィーバーの真相だったのだろうかと思うとなんだか胸が切なくなった。

 

 

 巣立っていくアカデミーの子たちへ

 

 暑い日も、雨の日も、サポーターよりも選手たちよりも早くスタジアムに駆け付けていつもホームゲームの準備と片付けをありがとう。正直試合内容によっては、我々も応援の途中で心が折れてしまいそうになることもあります。そんな時に隣で楽しそうに元気に(いつの間に作ったのだろう振り付けや合いの手を交えて)一生懸命に声を出してくれるあなたたちが大好きでした。最終節もあなたたちに癒されました、元気を貰いました。グッズ販売ブースでは「めっちゃ商売上手じゃんw」 「もしや歩合制なの?」ってくらいに巧みな話術と元気で可愛らしい笑顔でお客さんの呼び込みをするあなたたちに笑わせて貰ったりもしました。これからもサッカーを続ける子も、サッカーとお別れをする子も、どうかこれからも怪我無く元気で、いつも楽しく笑ってて欲しいです。スフィーダでの青春の日々を思い出す時に、100回に1回くらい「そういえば声出しサポーターの変なオッチャンたちとおばちゃんたちがいたな~」と一緒に思い出してくれたら嬉しいです。

 こちらこそ、これまで本当にありがとう。お疲れ様でした♡

 

 

愛してるスフィーダ!

愛してるアカデミー!