車はクリスマス一色のランドマークタワーとワールドポーターズを通り過ぎていく。
今年のクリスマスはきっと一人じゃない。
ひな子は窓の向こうのまばゆい夜景ににんまりと笑みをこぼした。
車に乗っている間ずっと、涼は絶対に男の子にしか理解できないようなロック(オルタナ?)を聞いてご機嫌だった。
1つわかったのは、涼は昔、CDデビューしそうなバンドにいて、ギターを弾いていたということだ。結局デビューの話は流れて解散してしまったという。
イケメンとバンドとはなぜかありがちな組み合わせだと思った。ひな子のイケメン友達もバンドを組んでいる人は多い。そして漏れなくギターかボーカルなのだ。彼らがドラムやベースをやるのは確かに想像できない。
ひな子は、涼の少し自慢げに曲作りの話なんかをするのを、多くの女がそうするように、真剣に聞き入っているふうにしながら、涼のちょっと子供っぽい部分をかわいいと思っていた。
涼は時々急に無口になった。そういう時、本当に何を考えているのか読み取れなくて不安にさせられる。
もしくは、全く何も考えていないのかもしれない。
ひな子は運転する涼のまっすぐで大きな目をそれとなく観察しながら、気になっていたことを聞いた。
「ところで、年まだ聞いてなかったね。いくつ?」
「28」
返ってきた数字にひな子はガクゼンとした。
What?
ひな子の恋愛カテゴリーに年下は存在しない。
「ひなちゃんは?」
「…29」
「へー年上だ」
涼も考えてなかったようで一瞬動揺が見られた。
その後しばらく2人は沈黙した。ひな子は別に恥じることもないのに、気まずかった。
…絶対今、おばさんって思われた。
ほどなく車は元町に入り、商店街の中をしばらく走ってから街中の立体駐車場に入った。
車を駐車場に止めて、そこから歩くことになった。
予想外にまともな展開だったので(もっとヤバイ場所で降ろされるかと思っていた)、ひな子は内心、心の底から救われた気がした。痛い目には合わないようだ。
と同時に、これからの流れに期待をせずにはいられなかった。わざわざ元町まで来て、居酒屋はない。
フレンチか高めのイタリアンか。隣に中華街があるので、中華という選択肢もある。お腹だって空いてきている。
さて、キミはどんなレストランに連れてってくれるのかな?
商店街のメイン通りではない細い小道をまっすぐ歩く。すでにレストランやバー以外はシャッターを下ろしている。
涼というグッドルッキングを隣に置いて、人が振り返るので、ひな子は年甲斐もなく得意になって、わざと年下の男の腕に抱きついてみたりした。高いダイヤモンドでも身につけたみたいに無敵な気持ちになった。寒さをすっかり忘れていた。
正直年下っていうのにはびっくりしたけど、まあいっか。
あまり気にしないように努める。
急に左に曲がり、山手方面に坂を上っていく。あたりが電灯の明かりだけになり、心細くなるほど人気もない路地をさらに曲がって。
こんなところに店が?
ちょっと、本当にどこに行くつもり~?
また怖い考えが吹き返しそうで焦る。話していて、涼がそれほど悪い人間でないことはなんとなくわかってきた。が、何を信用していいのかわからないこの世の中なだけに…。涼についてきてしまったひな子自身も悪いのだが。
「ねえ…」
ひな子が問いただそうとしたとき、
「ここだよ」
涼が急に向きを変えて、とあるマンションの中へ入っていく。
斜面に立っている、中型の何の変哲もないマンションだ。
なに?まさかここ涼のマンション?
そんな、いきなりお宅訪問!?まだ心の準備が…
涼はどんどん進んでいく。
ひな子は後をついていきながら心臓の鼓動が大きくなるのを感じた。
涼の気持ちが読めない。読むのも怖い気がするし。
何を考えてるんだろう?やっぱり怖い想像通りの男or単に遊び人なのか。
もうありとあらゆる酷いことしか浮かばなかった。