!?彼からのメールだ…
これってもしかしてわたしに会いたいってこと?
彼のほうもわたしのことが気になってたりして…
でもわたしなんかに?大事なものってなんだろう…
ひな子は驚くと同時に心が少しどきどきするのを感じた。
彼に会える!ヤダもしかしてこのどきどきって恋のはじまり?
ひな子は久しぶりの恋の予感に気持ちの高まりを感じていたが、その、上がっていった感情の波が急にフラットになった。
待ってよ。なんかこの展開おかしくない?できすぎてない?
ひな子の防衛本能がチクチク働く。
世の中そんなに甘くない。福袋でも宣伝過剰な化粧水でも金儲けができるとウタった金融商品でも、できすぎた話にこそ注意しなければならない。
簡単に返事をしちゃっていいんだろうか?
ダメ。絶対ダメ。
どこに住んでてどこの会社のどんな人間かも知らない男に本気になるなんてダメ。
これは完璧に遊び相手だと思われてるパターンよ。
大事なものを取りに行くっていうのは口実で、ヤリモクだって!大体いかにも女に不自由しなそうな男がバーなんかで会った女を相手にするわけがない。
今までだって何人かいたじゃない。怪しい男。クラブで知り合った妻子持ちっぽいDJとか、大学の飲み会で突然隣に座ってきた超モテる金持ちの先輩とか。みんなどこかウソっぽかった。
本命じゃないけど、ちょっとひっかけてやるかっていうウサンくささがぷんぷんしてたじゃない。
顔にだまされるな、絶対危険な男なんだから!
強い自制心が、うねる好奇心を押さえつけようとしていた。
急に非常階段の扉が開いて、タバコを吸っていた人が出てきた。
12月の風が吹き込んでくる。
なんだか寂しい気持ちにさせる風だった。
彼の目、キレイだったな。。
シャワーから出てきたときもなんか期待を裏切らずオトコ前で…
携帯を握り締める。
冬の間だけ…
一緒にいられたら…
そのあとちゃんと結婚に向けてまともな人を見つけるとか…
寒さが心を弱くするようだった。
ひな子は迷いながら親指を動かした。
「どうしようかなあ。ちょっと今日は予定が…」
その後の言葉をどう続けようかしばらく思案して、次の言葉を続ける。
「でも大事な忘れ物なら、しょうがないね。何時に来るの?」
ひな子の防衛本能は結局、彼に対する好奇心や期待に勝てず、もろく崩れ去った。
期待と後悔をしながら席に戻ると、再びメールが入る。こっそり見ると、
「よかった。じゃあ7時半ころ横浜で待ち合わせよう!せっかくだからご飯でもどう?その後取りに行くから」
彼のメールだった。
ご飯一緒に食べてくれるんだ。もしかしてわたしのこと真剣に考えてくれてるから??
― 無い無い。
はあ。もう何をしてんだろわたし…
自分から罠にかかりに行っているようなものだ。
今からでも引き返せば、傷つかず、また波のない穏やかな毎日が待っている。
結婚相談所に登録するなり何なりして、まっすぐ結婚に向けて準備する。これが29才のまともな考え方だ。
それとは真逆に、20代はあと少しで、恋愛に冒険するなら今のうちという考えもひな子の心の中でドクドクと激しくうねっていた。
パッと、ひな子の頭にある考えがひらめいた。
それは同じ年の親友・美和子の奔放ぶりだった。
彼女はかなりの美人で、女王様で、男に貪欲だった。
結婚するような男がいないと言いながら、天然癒し系から年収3000万まで常に5人の男を携帯にストックしていて、どんな出会いにも前向きで、いつでも楽しそうだ。
男から遊ばれるということは彼女のプライドが許さないらしく、むしろ自分から相手をうまく転がしている、まるでハンターみたいな女だ。
彼女だったら、こういう出会い方でも、相手が自分の好みなら確実に相手をしとめてコントロールしているだろう。。
決してマネはできないが、ひな子にとってある意味羨ましい存在だった。
わたしだって…
できる…わよ。
狩られるより、むしろ狩る方がなんだかかっこいいじゃない。
―そんなこと絶対ダメ!今すぐ食事を断って、日を改めて大事な忘れ物を渡すっていうメールを送りなさい!
なーに言ってんの!
どうせ遊びなら、美和子みたいにわたしが相手をものにしちゃえばいいのよ。
食っちゃえ食っちゃえ!
うまくいったら、これが縁で彼と結婚する可能性だって全くなくはないんだし~。
てゆーか、面白そう!
天使と悪魔がぶつかって、悪魔が微笑んだ。
急におかしな自信とやる気が湧き上がってきた。
首洗って待ってなさいよ、奥田涼!
極上のいい女からあなたは離れられなくなるんだから!
…こうしてひな子は、自分からゲームをスタートさせたのだった。