恩師という言葉は、なんかちょっと違う。


 師ではあるのだけど、不思議な存在。


 日本の現代美術の生き字引。


 驕らず、ひょうひょうとしていて、


 元気だった頃、個展のときには必ず来てくれた。


 美学校に見学に行った日、当時校長室だった応接室で


 「なんで美学校に来たいのか」 と、聞かれ


 答えに困った。




 「他に行くところが無かったから」 とは言えなかった。




 実際、その前に行っていた美術学校が合わなくて


 やめたはいいけど、路頭に迷っていた時


 先輩に勧められて、どんなところかなんて


 知らないまま見学に行ったのだった。


 ここで断られたら…と、


 なんだかんだ訳のわからないいいわけをつくろって、


 必死だったことしか覚えていない。


 なんとなくお互いしっくりこない感じのまま


 結局私はそこの雰囲気が気に入って


 石版画(リトグラフ)工房と写真工房と合わせて4年通うことになった。




 入って間もない頃の私のリトを見て


 「これはなんだね?」


 と、聞かれたので、


 「曼荼羅!雪だるまの曼荼羅だから雪だる曼荼羅!」


 と、答えた。


 今泉さんの顔がニヤっとほころんだのが


 忘れられない。

 


 残念ではあるけれど、


 出会えたことに感謝したい。



 今泉さん、ありがとうございました。