先日、ドメーヌ・タカヒコの曽我さんがTwitterでこんな事を呟いていました。
 

 

 ーーー


おおー、コレは面白い。

思いつきそうで思いつかなかったタンクですね。

 

ワイン醸造におけるタンクの存在は醸造や貯蔵(熟成)に使いますが、その素材や大きさなどが様々で、今日はそのタンクについて掘り下げていきたいと思います。

 

 

1:木製

 

伝統的に、世界中で多く使われている基本的なタンクです。

ウイスキーにとっても欠かせない木樽ですね。

 

木製のタンクは通気性がある為、熟成期間中はワインに空気が触れる事で、タンニンがまろやかで、複雑味を持つワインを造る事に適しています。使用する素材にも色々とありますが、基本的に「オーク」=「楢(ナラ)」を使います。適している理由として、密になっているので液漏れがしない事や、樽に加工しやすい柔軟さがある事です。独特のバニラ香を育むバニリンという成分を筆頭に、ラクトン(ナッツ香り)やマルトール(キャラメル香)などのお酒の風味がワインの複雑なフレーバーを生み出します。

 

“オーク樽”と一括りにしていますが、オークにも種類があり、フランス系のオーク(リムーザン・オーク、トロンセ・オーク)アメリカ系のオーク(ホワイト・オーク)の2つに大分されます。フランス系の方がお高く、上品な風味を生み出します。また木樽は樽の中をどれぐらい焦がすか(ローストする事)で、風味の調整が可能になります。前述のバニラ香に関わるバニリンという成分は、この焦がしがキモになります。近年は日本独自の水楢を用いたジャパニーズ・オークも流行の兆しを見せていますね。


極端に大きな樽を造る事は出来ませんが、逆に小さい樽を多用する事によってワインに触れる樽の面積を増やす事が可能となり、徹底的に樽のニュアンスを入れる事が可能になります。お金に余裕があれば、毎年新品の木樽を購入する事で、樽香たっぷりのワインを造る事が可能ですが、勿体ないので2年、3年と使いまわしをしたり、ウイスキーやシェリー用に樽を流用する、といった使い方もします。お高いワインは新樽使用比率が多いのかも?

 

ちなみに日本酒では杉で作られた杉樽を使いますが、これは酒に意図的に杉の香りを付ける場合もあるなど、木の香りが強いのでワイン用の樽に用いる事は少ないのでは?と思います。他にも樫や檜で作られた樽も有る事には有りますが、あまり使われていない様です。

 

 

 

2:ステンレス製

 

伝統的に使われてきた木樽に対して、現代的ともいえるステンレス製の金属タンク。

 

なんといっても、1つ1つを基本的にハンドメイドで作られる木樽と比べてコスト的には圧倒的にステンレスタンクは安く済みます。更に、洗浄などの作業性や、大型にできる=大量生産が可能になります。金属は外部からの温度調整も可能なので、気温が高い日など、場合によっては上記の写真の様にタンク上部から水をかけて冷却する(タンク表面が左のものと比べて光沢があると思います)という方法も可能になります。

 

そして、決定的に違うのは外部の空気を遮断する事が可能という事です。衛生面といった部分でも貢献しますが、耐圧性のあるタンクを用いてワイン内にガスを含ませる手法などにも対応可能で、シャルマ方式で作られるスパークリングワインには欠かせない存在です。また、木樽のニュアンスとか酸化などの“外部の影響”を受け難い事を利用して作られるフレッシュなスタイルのワインは、ステンレスタンクを用いる事が多いのです。逆に、タンニンなどの円みが欲しい時には、ちょっと向かないタンクです。

 

 

 

3:コンクリート製

 

Concrete eggs in the winery

(写真引用:Decanter.com
 

コンクリート製のタンクは、ズバリ、木樽とステンレスタンクの良い所取り。

僅かに通気性を持っている事、それでいて木樽の様にワインに対しての影響が無い事、また外気の影響を受けないといった利点があります。更に、コンクリートはある程度は自由な形を作る事が可能なので、発酵時に発生するガスを利用してワインが自然に対流する様に考えられた結果、この卵型が誕生しました。「コンクリート・エッグ」と呼ばれています。

 

今回、ドメーヌ・タカヒコさんで導入したのは、木樽のサイズ・形状のコンクリートタンクです。これは、従来は木樽を使っていた場所でも導入可能な点や、やはり上記の様に木樽とステンレスタンクのメリットを考えた点からのアプローチとして考えている様です。あくまで熟成用としての導入との事でした。地元、北海道の素材が使われたコンクリートタンクというのも嬉しい限りです。ちなみに、価格は木樽と同程度なのだとか。

 

最近、この卵型の利点に着目してオーク製の卵型樽を作っちゃったという木樽メーカーも現れましたが、コンクリートタンクよりは通気性もあるので、コレはコレで面白いのかもしれません。

 

 

 

4:陶器製

 

 

俗にいう、アンフォラとかクヴェブリと呼ばれるものです。

 

古来のワイン作りでは陶器製の入れ物が使われていたので、伝統的な製法として近年のジョージアワイン人気にあやかって利用する生産者が増えてきました。自然派ワインにはアンフォラが必要、という考え方がイマイチよく分からないのですが・・・

 

通気性は木製>陶器>コンクリートタンクという順番でしょうか。正直言って、蓋開けとけば良いんじゃないの?と思いますが(笑)ワイン発祥の地と考えられているコーカサス地方のジョージアでは、この素焼きの壺を地面に埋めて、その中にブドウを入れて発酵、熟成をさせていたそうです。地面に埋める事で外気の影響を受けず、ある程度一定の温度で管理出来ます。


利点はコンクリートタンクと似ている部分が多いですが、現代では地面に埋めて作るという事も容易ではなく、温度管理が大変な作り方なのだそうです。

 

 

 

5:ガラス製

 

image

試験醸造なんかにも使われますが、このガラス製容器を使って醸造する生産者もあります。写真は数年前に福島県・猪苗代町にある「ワイン工房あいづ」様で撮影させて頂いたガラス容器が並べられた棚。ガラス製なので、コンクリートと同じく外部の影響を受けないニュートラルな味わいを造る事が出来る事や、ステンレスタンク以上に衛生管理が可能な上、写真の様にキャビネットに並べて容易に管理できる事がメリットです。(下記参照)

 

味わいとしては、ステンレスタンクには出せないちょっと不思議なピュア感があります。実験室の様な・・・ケミカルな味わい・・・?ブドウの質をストレートに表現する場合や、ステンレスタンク以上にフレッシュ感を味わうワインを造るには適していると思います。デメリットは、手が滑ったら大変な事に・・・

 

 

 

6:樹脂製、他

 

このほかにも、プラスチック製やカーボン製のタンクを使用している生産者も多く居ます。元々ワイン醸造用ではなかった物を流用したり、あるいは建屋の大きさの事情など様々な理由が考えられますが、ホーロー引きの小さな寸胴で作る生産者も。

 

また近年は裏技というか、卑怯な手法(笑)で、ボトルにオーク材のスティックを入れて風味を増す方法があります。

 

 

 

実際の所、大手のワイン生産者でもウッドチップをステンレスタンク内に投入して風味付けをするなどの事は行っていますし、このグッズ?に関しては、色合いもしっかり濃くなり、風味もバッチリ付きます。コレが笑える程味わいに変化が生まれるので、遊び半分で試してみるのも全然有りです。

1000円以下で買える安ウイスキーやワインに少しばかり樽の風味を利かせる事で、どんな味わいの変化があるかをテイスティングしたい方は試してみては如何でしょうか。

 

スティック入りの角瓶を飲んで、バーボンだと騙された本人談ですから(泣)」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
お酒造りに欠かせないのは材料や水もそうですが、容器にも色々な考え方や種類があります。
たまには作り手の容器について考えながら一献傾けてみると、また違った美味しさに気が付くかもしれません。
 
 
 
 
 

役に立った!と思ったら、ついでにクリックしてくれると嬉しいです!