Ep 108 ☆光の洗礼☆

「チッチちゃんは、女優になりたいのかい?」

叔父の問いかけに私は答えなかった。
ただ、流れる景色を車の窓から見つめ続けていた。

ーーいたたまれなくなって逃げるように帰宅した二次審査。
不合格だとばかり思っていたのに、届いたのは『地方ブロック最終審査』のお知らせだった。

その封書を、母は当然のような顔をして真っ先に読んだ。
そしてすぐさま実家へ連絡し、弟(私の叔父)に車で送ってくれるよう勝手に段取りをつけていた。

(……なんで言うのよ)

私は女優になりたいわけじゃない。
ただ、ここではないどこかへ行くための『手段』として、こっそり動いていただけなのに。
それを皆にベラベラ喋り散らされて...。

本当は、一人で新幹線に乗って、自分の足で向かいたかった。
脱出計画が「家族旅行」のような空気に塗り替えられていくのが、
たまらなく嫌だった。

会場に着くと、母は送ってくれた叔父への気兼ねもあってか、外で待つことになった。
建物の中へ一人で入れたことに
私は少しだけホッとした。


ーーこのオーディションは、大ヒットした少女漫画の映画化に伴うものだった。
主役には誰もが知る大人気アイドルが決まっていた。
その映画のスポンサー商品のイメージガールを決めるための審査。
優勝したら、クラスメイトとして映画にも出演出来る。
というものだった。

原作も読んでいたし、そのアイドルはテレビで見ない日はないほどのスターだ。

そんな大きな作品の地方ブロック最終審査の舞台まで私は来てしまったのだ。

「は~い、呼ばれた番号の人は、ステージへ行って、一列に並んでください。
前を向いて!」


ーー眩しい。


光あふれるステージに立つと、二次審査の時とは空気が全く違っていた。
そこには、未来のスターを目指す少女たちの、目には見えない『戦い』が繰り広げられていた。

その気迫に圧倒された私は、いつの間にか列から弾かれ、誰かの影に隠れるように立っていた。

「○番さん」

えっ?あ、私だ。

「はい。どうぞ」
いきなりマイクを渡された。

「あなたの志望は、なんですか?」

「…歌手です」

(きょええええーーーー!!!!何答えてるの私!!!!)

口を突いて出たのは、まったく考えてもいなかった言葉だった。

「じゃあ、何か歌ってみて」

何の準備もしていなかった私は、頭が真っ白なまま、その時流行っていた曲をワンフレーズ歌ってた。

「はい。では次、△番さん」
「はいっ!」

次に呼ばれた子の大きく響き渡る返事。
その勢いに押されるようにして、私は再び列の後ろへと押し出された。


   「チッチ物語」続く...