Ep 70 ☆ランドルトわん☆
中学生活が始まってすぐのこと、私はある異変に気づいた。
……教科書の文字を見ると、頭が痛い。
最初は「疲れているのかな?」と思ったけれど、毎日続くのはおかしい。
思い当たるのは、小学校の”名物習慣”だった。
私の通っていた小学校では、毎日2回、校庭を走り、そのあと必ず校舎の上に取り付けられたランドルト環ならぬ《ランドルトわん》を凝視するという視力強化プログラムが実施されていた。
でも私は、ランドルトわんを見つめると残像が残るのが苦手で、
そのうち、校舎の向こうに見える山の方を眺めるようになっていた。
するといつしかーー
山の上で歩く人が見えるようになってしまった。
……見えすぎである。
そんなわけで眼科へ行くと、先生に
「視力が良すぎて、痛みが出ていますね」
と言われてしまい、処方されたのは、まさかの…
視力を少し落とすための眼鏡。
兄は近視で眼鏡が必需品だったけれど、
私は”見えすぎ”を調整するための眼鏡。
なんだかちょっと不思議な気分だった。
でも、その眼鏡を一年ほどかけ続けると、不思議と頭が痛くなくなっていたので、きっと効果があったのだろう。
当時の私は視力検査2.0までしか測れなかったけれど、
本当はいったい何まで見えていたのだろう。
恐るべし、ランドルトわん。
