Ep 65 ☆桜☆

「なぁ、昨日のアニメ見たか?」

クラスの男子が話しかけてきた。

あぁそうだったーー。
私は、女子にだけ無視されていたんだ。
男子とは普通に話せていたことを、すっかり忘れていた。

兄の影響で少年アニメも漫画も大好きだから、男子とは話が合う。  

「ほら、これ読んだから貸してやるよ」
最新刊の漫画雑誌を貸してくれる男子もいた。

でも、女子のいじめがあまりにも強烈すぎて″男子の存在″を意識する余裕すらなかったのだ。

***
ある日の授業中。
「これから時間まで自習していなさい」
と言い残して先生が教室を出ていった。

ズキューン!

なんだよぉ!

ギャハハハハ!


たちまち、教室は無法地帯に。

その喧騒の奥から、また聞こえた。

もんでぇ~♪
きゃはははは!

お決まりの、私への嫌がらせ。

聞こえないふりをして耐えようとした、その時!

「うるせぇ~な~!
おめぇは顔がでけぇ~んだよ💢」

「はぁ~?なによぉ~」

「うるせぇんだよ、ブスッ!!💢」

女子と男子が小競り合いを始めた。

ガラッ!!

「おまえらー!!💢
静かに自習しろって言っただろ!!💢」

先生が戻ってきても騒ぎはおさまらず、教室はさらに大混乱になった。

……もちろん、私をかばってくれたわけじゃない。
あのワガママで声の大きな女子は、
男子からも煙たがれていた。
ただ、男子が言い返しただけ。

でも、
あの意地悪な女子がやり返されてるのを見たのは初めてでーー

胸の奥が、
ほんの少しだけ軽くなった。

窓の外を見ると、桜が咲き始めていた。
ざわつく教室とはまるで違う、
静かな春の色だった。

      「チッチ物語」つづく…