Ep 57 ☆みかん鍋☆
子どもの頃の私は、冬になると毎年「しもやけ」になるのだった。
冷え性のせいか、血のめぐりが悪くなるとすぐ足の指が真っ赤に腫れて、時には青紫のアザみたいに…
痛いのに痒い。
痒いのに触れない。
長靴の中が蒸れると痒みが地獄のように襲ってくるのに、痛くてかけない。
これが、私の冬の通例行事だった。
どんなに暖めても、どんなに薬を塗っても春がくるまで治らない。
ーーでも、ひとつだけ″即効で治る方法″があった。
それは…「高熱を出すこと」!
身体の中からポカポカになるせいか、熱が下がるころには、しもやけも消えているのだ。
(とはいえ、そんな都合よく熱なんて出せないんだけどねぇ~~)
そんなある冬のこと。
私が風邪をひいて寝込んでいた時、母の母ーーおばあちゃんが家に来た。
「これ食べると、あったまっからぁ~。
風邪なんて、すぐ治っからねぇ~」
そう言って、おばあちゃんが持ってきたのは、
皮ごとみかんがゴロゴロ入った土鍋だった。
湯気の向こうで、オレンジ色のみかんが、ふわりと香っている。
ほんのり甘くて、少し焦げたような皮の香り。
その匂いだけで胸の奥まで温まるような気がした。
「えっ!?みかんが鍋にはいってるぅー!?」
私は驚いて笑って、
おばあちゃんは「ほら、食べてみぃ」と、にこにこ笑っていた。
どんな味だったかは、もう覚えていない。
ただ、あの時、部屋いっぱいに広がったみかんの香りと、おばあちゃんの優しい声だけが、今も記憶の奥であたたかく灯っている。
あぁ……あれは、心まで温まる鍋だったなぁ。
