Ep 50 ☆わた菓子☆
子どもの頃の楽しみのひとつに「納涼盆踊り大会」があった。
町の大きな神社で毎年開かれる夏祭り。
遠くからドンドコドンドコ、太鼓の練習の音が聞こえてくると、
「あっ!もうすぐお祭りだ♪」
と心がウキウキした。
小さな頃、夜に母と出かけるのは、たいてい父から逃げるためだったけど、この夜だけは違う!
町じゅうの人が外に出て、笑い声と光であふれる特別な夜だ。
やぐらの上では太鼓が鳴り響き
「はぁ~~~~~~♪」と甚句を唄う声。
ドンドコぴぃ~ひゃら、ドンドコぴぃ~ひゃら♪
心臓までリズムが届く。
子ども時間の最後まで踊り続けると、鉛筆やノートがもらえるんだよ。
それも楽しみのひとつ♪
通りには、ずらりと並ぶ夜店。
金魚すくい、ヨーヨー釣り、リンゴ飴、くじ引き…
どれもこれも欲しいものばかり!
そんな中、母は毎回、空気でパンパンになった袋入りの″わた菓子″を買ってくれるのだ。
でも…なぜ?
他にも欲しいものがいっぱいあったのに。
私が欲しいって言ったのかな?
それとも、母の方が好きだったのかな……。
もう理由は分からないけれど、今でもわた菓子を見かけると、
なんとなく思い出してしまう。
ーーとおい、遠い夏の夜のこと。
