一年の中で一番お昼の時間が短い日です。
別の言い方をすれば、一年の中で一番夜が長い日です。
冬至を境に、夜という時間は段々と短くなっていきます。
不思議ですね。
冬が深まっていく一方で、確実に季節は春へと向かっていくのです。
また冬至は太陽の力が一番弱まる日でもあります。
別の言い方をすれば、太陽の力が強くなり始める日なのです。
陰が極まり再び陽にかえる。
この国では『一陽来復』といって冬至は運気が上昇に転じる日としています。
山南さんの部屋へ膳を下げに行くと、山南さんは本を読みながら私に声をかけてきました。
「今日は冬至ですか。羅刹となった身の私としては、夜が短くなっていくのは残念ですね。しかし運が上昇するのは素晴らしい。雪村君の運も多いに上昇していくように…。」
「山南さんの運気も上昇しますよ。」
「『人』では無いのに?」
私は言葉に詰まり、暫くの間沈黙が流れました。
「『人』で無くてもです!今こうして呼吸をしているもの全ての運気が上がります、きっと。」
「ふふっ…雪村君には敵わないな。」
山南さんは笑いながら、おいでおいでと手を振りました。
「雪村君は確か、白居易の歌に興味を持っていましたね。冬至の歌もあるのですよ。彼の歌の中には。」
山南さんの読んでいる本を覗き込むと…
邯鄲駅裏逢冬至、
抱膝灯前影伴身、
憶得家中夜深坐、
還応説著遠遊人。
「…読めません。」
苦笑いをしながら顔を上げると、山南さんはクスリと笑って静かに歌を読み上げました。
邯鄲の駅裏にて冬至に逢ひ、
膝を抱きて灯前に影の身に伴へり、
憶ひ得たり家中に夜深くして坐りし、
環た応に遠遊の人を説著すべきを。
「邯鄲で一人寂しく冬至という時節迎えることになってしまった。思い浮かぶことと言えば、家の者が夜更けにも関わらず遠くにく旅をしている私のことを噂しているに違いないことだ…といった内容でしょうか。」
「白居易という人は、人との縁や家族を大切にする人なのですね。」
「それは君もでしょう。」
「私ですか?普通ですよ。」
「ふふっ…無自覚ですか。だがそれが君の良いところなのでしょう。」
褒められたことに照れていると、山南さんは空になった膳を差し出し、私に部屋を出るようにと促しました。
「さぁ、私は仕事の時間だ。雪村君は早くに体を休めなさい。流感が流行っているようですから。」
「はい。山南さん、お気をつけて行ってらっしゃいませ。」
静かな冬至の夜、チラチラと白い雪が舞っています。
「運気上昇の日か…良し、明日も頑張ろー!」
どうぞ皆様の運気も多いに上昇しますように。