『存在』すると言うことを。
私が此処にいる『存在意義』は自分の中ではっきりとわかっているのです。
では私が『存在』する意味は?
私が居ても居なくても『新選組』という組織は、時代に合わせて動いていく。
何故なら私は新選組にとって『異端』であり『傍観者』でしかないから。
では私が何故『此処』に居るのだろうかと、そう思いました。
あぁ…『此処』と言うより、大きな意味で『この世』と言った方が正しいですね。
私は成り行きで『新選組副長の小姓』という立場を与えられ、簡単な雑用をこなす毎日です。
しかし『新選組副長の小姓』は私でなくとも、見習いの隊士さんでも良いわけで…。
なんてことを考えていたら、土方さんにとお持ちしたお茶を溢してしまいました。
「申し訳ございません!」
背を向けていた土方さんは、不機嫌そうな顔で私を睨みつけました。
「何を考えてた?」
「えっ?」
「ぼんやりと考え事をしてたんじゃねぇか?」
全てお見通しのようです。
「あっ…その…私が存在する意味を…存在する意味があるのかとか、今の立場の意味が分からなくて」
「くだらねぇな」
「すいません」
「謝らなくていい。まず『生きている』ってことはそれだけで『存在する意味』があるってことだろう。その意味がわからなければ、それを模索するのも『今』存在する意味に繋がるんじゃねえか?」
土方さんの言葉が強く胸に響きます。
「お前が今の自分の置かれている立場に疑問を感じているなら、その意味を確立させるのはお前次第だ。『新選組副長の小姓』という肩書に乗っかってお茶汲み役で終わるのか、それなりに仕事を任せられるようになるのか。お前はどう在りたい?」
「私は…」
胸にあるものを口にしていいのか分からずもごもごしていると、土方さんから「はっきりと言え」と厳しい声が発せられました。
「わっ私は…もっと役に立ちたい。自分の出来る事なら何でもやってみたいです」
「ふん」
土方さんは一言そう言ってまた文机へと向かい、仕事を再開させました。
(うわぁ…偉そうな事言っちゃったな…気不味い)
暫しの沈黙の後
「まず茶を淹れ直ししてこい。それから届けて欲しい文が一件ある。お前一人で外に出すわけには行かねぇから、誰か人をつける」
「あの…その人に文を届けてもらうようにすれば良いのではないですか?」
「千歳、俺はお前を信用して文を預ける。付き人はあくまでも護衛だ。わかったか?」
「信用…」
「お前は他人から信用されないような、いい加減な人間のつもりでいるのか?」
「いえ!そんなことはありません!」
「だったら頼まれてくれるな?」
「はい!」
「それからな…」
土方さんは振り向き、真っ直ぐに私を見据えて言いました。
「立場の意味を迷うのは俺も同じだ。かつての俺達は京の警備をするという名目で、新選組が存在する意味を作り上げていた。何もしなければそれで終わりだからな。だから手柄という起爆剤が欲しかった。それが池田屋での一件に当たる。だがこれで終わりじゃねぇ。新選組をもっと大きくしてぇ。その頂点に立つ近藤さんをもっともっと上へ上げてやりてぇ。本物の武士にしてやりてぇ。それが今の俺の生きる意味であり、存在意義だ。その為なら何でもやる。もし頂点に達したら…そこからまたさらに高みを目指すだろうよ。迷うことも多々ある。だが立ち止まっているだけじゃあ何も進まねぇ。それは誰も同じだ」
「土方さんでも迷うことがあるのですね」
「あったりめぇだろ。鬼と言われても所詮は人の子だ」
そう言って笑う姿はとても『鬼』とは思えず、素の土方さんの一面をまた一つ垣間見た気がしました。
「あと小姓なんて者はお前一人で十分だ。お前はお前なりに良くやってくれている。不満はない。だから与えられた仕事をこなすことに集中してろ」
「はい!有難うございます!」
存在する意味は与えられるものではなく自分で作り上げていくものだと、そう感じました。