
「花散らしの雨になっちゃいましたね…。もう少し楽しめるかと思ったのに。」
日直のノートを提出しに来ていた私は、職員室から見える校庭の桜を見て、大きな溜め息をつきました。
次の瞬間、土方先生は飲んでいたコーヒーを吹き出し、永倉先生は競馬新聞と赤鉛筆をセットで落とし、原田先生は苦笑いを浮かべました。
「雪村…女がそんな言葉をくちにするんじゃねぇ!」
「へっ?土方先生、私何かおかしかったですか?」
「千歳ちゃん、不味いって。」
「永倉先生何故です。」
「あー新八に聞くな。可哀想だから。つーか、俺は新八が『花散らし』を知っていたのに驚いたぞ。」
「原田先生、何か難しい言葉だったのですか?『花散らし』って?」
原田先生はハハッと笑って、言葉を続けた。
「『花散らし』の本来の意味はな…3月3日に花見をして、夜通し宴会をするって事だ。男と女が集まればどうなるかくらいわかるだろ?」
はぁ…と相槌を打ち、原田先生の言葉を頭の中で反芻する。
次の瞬間顔が熱くなり、変な汗が吹き出てきた。
「…あっ?えっ?やだ!やだ!そんな意味なんですか!?」
慌てる私の姿がよっぽどおかしかったのか、珍しく土方先生は薄笑いを浮かべている。
「嘘だと思うならスマホでググってみろ。間違いねぇから。まぁ知らねぇ奴の方が多いだろうよ。お前さんは運良く本来の意味を知ることが出来た。良かったじゃねぇか。」
火照る顔をパタパタと扇ぎつつ、土方先生の言葉に耳を傾ける。
「今回は『桜流し』が正解だな。」
「『桜流し』ですか?」
「花びらを散らす雨って意味だ。」
「初めて聞きました。うーん…日本語って難しいですね」
「難しいじゃなく、奥深いんだよ。それを読み解くのが面白い。」
(奥深いか…言い方ひとつで変わるな〜。土方先生って言葉の選び方が上手いな〜。)
「競馬は奥深いが、土方さんの言っている言葉はめちゃ難しい。」
「新八!おめぇはいい加減競馬から卒業しろ!」
永倉先生は相変わらず競馬一色で、土方先生はやっぱり怒ってて、原田先生はそれを静かに見守ってて。
こうして桜流しの一日は過ぎていくのでした。