今日は二十四節気の『大寒』。
季節を指す意味もあり、次の『立春』の前日までが『大寒』となります。
寒さが最も厳しくなる時期と言われています。
武道では、この時期に寒稽古を行うそうです。
目が覚めると、木刀を振る音が聞こえました。
(誰だろう…)
襖をそっと開けて外を見ると、土方さんが一人素振りをしていました。
(遅くまで起きてて、早朝から寒稽古。寝る暇もないじゃ…)
「千歳、興味があるならお前もやるか?」
急に声をかけられたことと、つめたい風が吹き込んできたことで体に衝撃が走り、反射的に背筋がピンと伸びました。
「はっ!すいません。覗き見してしまいました。」
「構わねぇよ。かえって起こしちまったか…悪いな。」
「いえ!お仕事が忙しい中、こんなに朝早くから剣の稽古なんて…。」
「仕事にかまけて、剣の腕が落ちたなんて事になれば、笑い話にもならねーよ。」
突き刺さるような寒さの中なのに、土方さんはうっすらと額に汗をかいています。
(どのくらい前から始めたんだろう…)
私は手早く着替えを済ませ、顔を洗って、土方さんの元へと向かいました。
「私にもやらせてください。少しでも強くなりたいです。」
「どんなに稽古しても、へなちょこはへなちょこだぞ(笑)」
「うっ…そうですけど。守られてばかりだなんて嫌なんです!私も強くありたい。」
土方さんはうっすらと笑みを浮かべ、私に木刀を手渡しました。
(うわっ!重い…。)
「刀と同じ重さになっている。お前の小太刀よりかなり重いだろう?絶対に無理はするな。限界を感じる前に止めるんだぞ。」
「はい!」
ゆっくりと頭上へと持ち上げ、目の前の空気を切るように振る。
重さに耐えられず、ふらつく足を踏ん張りながら。
「振るんじゃない。体全体の力を使って断ち切るだ。」
「はい!」
私は寒さを忘れるほど、夢中になって木刀を振り続けました。
「千歳ちゃん、どうした?食欲ないのか?」
「今朝は千歳の好きな、豆腐となめこの味噌汁だぞ?」
「ん?食わしてやろうか?」
なかなか箸を手にしない私に永倉さんと原田さん、平助くんが心配そうに顔を覗き込んできます。
「だっ大丈夫です。ちょっと腕がダルくて…」
調子に乗って木刀を振り続けた結果、両腕は筋肉痛になってしまいました。
唯一真相を知る土方さんは、一人笑いをかみ殺しながら朝餉を食べているのでした。