
ご無沙汰しております。
使い慣れた筆が折れてしまい…途方に暮れていると、土方さんが渋々ご自分の筆を譲ってくださいました。
「おめぇは日記を書くくらいしかする事ねえだろう?」
耳が痛い言葉ですが本当の事なので、私は苦笑いを浮かべるしかありません。
しかし、人の筆はやはり書き癖がついていて使いづらいです。
何時もの調子で言葉が綴れない事、どうかご容赦ください。
あっという間に立秋を迎え、市場にはちらほらと秋の味覚が並び始めました。
暑い夏に咲き始めた紅色の花は幾らか花を落とし、丸い実をつけています。

(金平糖みたい…)
禍々しく見えていた紅い百日紅は、今の私には愛らしく見えていました。
(落ちた花を持ち帰って、山南さんに見せてあげよう。報告したい事もあるし…)
私に起きた変化は今もなお変貌し続けています。
私はそれは悪い事ではなく、良くなる為の事だと自分に言い聞かせながら、身に起こるそれらを真摯に受け止めています。
(山南さんなら私が言わなくても全てお見通しかも。私の顔を見ると、妙に微笑ましい顔してるような気もするし)
「山南さんにお会いした後、会いに行ってみようかな」
私は踏み荒らされた中から愛らしく咲く花を選り分けながら、ひとりごとを続けます
「百日紅…好きかなぁ?うーん…あの人、百日紅の名前すら知らなさそう。ぷっ…『猿がなんだって?』とか言いそう。花とは縁遠い感じがするもの」
「雪村君、何をしているのですか。用は全て終えました。君には良い息抜きかもしれませんが、我々は遊びに出ているわけではありません。急いで帰らなくては」
「はっはい!すいません」
山崎さんの言葉に急かされた私は慌てて小さな花達を手拭いで包み、先を急ぐ山崎さんの後を追いかけました。
(梅、桜、躑躅に牡丹、金木犀に椿に百日紅…自分の好きな花の名を上げていたらきりがないけど…)
貴方の好きな花の名はなんですか?