
私は下がる派!
本文はここから雪は嫌いではないです。
でも、無条件に喜べるほど子供ではないです。
…皆さんから見たら十分子供なのでしょうけど(苦笑)
本題ですが、雪を見て気分が高揚するかと言わればそうでもなく、どちらかと言えばため息が出ます。
ただでさえ冬は洗濯が大変で洗濯物が乾きません。
雪が降る日の巡察は凍えるくらい寒く、皆さんが帰ってきた頃には体が芯まで冷え切ってしまっているし、指先や足先がしもやけになっている人もいます。
重症であれば凍傷となり、筋肉や骨が壊死する可能性もあるので…雪を見て喜ぶのは無神経な行動かなと…そう思います。
でも、皆さんは思うより雪降る中でも元気で、一緒に雪合戦しようと言われると断りきれず参戦してしまい、「千歳ちゃんは後ろに隠れてな」と言われても黙って雪玉を投げつけられるのが悔しくて、せっせと雪玉を作ってそれなりに応戦を…
あれ?
上がるの方が正しかったかな?
過ごしにくい雪が降る日も、私はそれなりに楽しみを見つけて過ごしています。
遠出する事はないけれど、散歩程度に外に出られた際にも草花を愛でる事を楽しみにしています。
雨に打たれた草花は少し悲しい気持ちになるけれど、雪で彩られた草花は陽射しの下で見る時とは違う表情を見せてくれます。

体は冷たいけれど心はほっこりしてきて…
あれ?
上がるの方が正しいのかな?
雪が降り冷え込むと、お布団や火鉢から離れがたくなってしまいますね。
しかしお布団から這い出して起き上がらなくては一日は始まらず、居候である私が数の限られた火鉢の横位置を陣取るわけにもいかず、吐いた息で手を温めすり合わせながら暖を取っています。
先日の事です。
私は背を丸めて俯きながら、長い廊下を歩いていました。
雪は音も立てず大地を白く染め、それに相反するように廊下はギシギシと音を立てています。
(廊下の軋む音が寒さを増長させる…気がする)
「おい、寒いからって背中丸めるんじゃねぇ。顔も上げろ。辛気臭くて仕方がねぇ」
「はっ…はい!土方さん、申し訳ございませんでした!」
「別に謝るほどの事じゃねぇだろう」
「あっ…すいませんでした」
「だから謝るなってんだろ」
「ごめんなさい…」
頭を項垂れ、ますます俯く私に呆れたのか、土方さんは大きなため息を一つつきました。
「千歳…醤油ときな粉だ」
「…はぁ?」
「聞こえねぇのか。醤油ときな粉だって言ってんだ!」
要領を得ない私の返答に苛立ちを感じたのか、土方さんはさらに大きな声で私を怒鳴りつけました。
「はっはい!すいません。すぐに用意します!」
「おい、ちょっと待て」
踵を返し勝手場へと急ぐ私の手を土方さんが強く引っ張りました。
「あっ…」
体の均衡を失った私は土方さんに軽く抱きつくような体勢になってしまいました。
「すっすいません」
慌てて離れようとすると、土方さんはそれを押し止めるように口元を耳に近づけてきます。
「ちょ…何なさるんですか!」
「秘密だぞ…他の連中には絶対に言うな」
「なっ何がですか!」
恥ずかしいやら、説明しがたい恐怖やらで半泣きの私を見て、土方さんはニヤリと笑いながら懐から包みをとり出し、私の目の前に広げました。
その包みの中身は…
「お餅…」
「特別に食わせてやる。俺の部屋の火鉢で焼いてやるから、醤油ときな粉を持って来い。その代わり食ったらその辛気臭せぇ顔はどうにかしろよ」
土方さんは何事もなかったかのように立ち上がり、いつもの少し不機嫌な顔をしながらその場を立ち去りました。
「もしかしたら…心配…してくれてたのかな?」
白い雪が舞う日は心も体も縮こまってしまって、とてもじゃないけど気分なんて上がりません。
でも心だけはなんだかほっこりとしてきて…
あれ?
やっぱり気分が上がるの方が正しかったのかな?