自分が望んで箱に閉じ込めて、鍵をかけて心の奥底に沈めた忌まわしい記憶を、すっかり忘れてしまっていた事に気がつきました。
あの時の事を忘れてしまおう…それを望んだのは自分。
でも、その時にここを立ち去ったあの人の事を、私は忘れたくはなかった。
だから後悔しました。自分を責めました。
でも私を咎めてくれる人は、私の側には誰一人いないのです。
苦しい想いを胸に抱いたまま目を閉じ、眠りながらゆっくりと記憶を解いて行きました。
あの時苦しいほど感じた憎悪は、もう思い出す事も感じる事も出来ませんでした。
でも、あの人が私にかけてくれた言葉は…まだ心の片隅に残っていました。
交わした言葉、他愛のない会話、些細な事で私を褒めてくれた事も、あの人がどんな人だったのか、どんなに真っ直ぐな人だったのかも…
ここではもう知る人は一人もいないとしても、私はまだ覚えています。
あの時、私はあの人のように真っ直ぐに生きようと決めた。
あの時、私もあの人のように己の誠を最後まで貫こうと決めた。
だからあの時、私はここから逃げ出さないと決めた。

いつの日かあの人とすれ違った時、恥じない自分でいられるように。
だからこの誓いは、けして忘れてはいけないのです。