梅が香 | 千歳日記

千歳日記

この先にある未来を…

たとえどんな未来でも私は見届けてみせる

最後まで…必ず

梅の花が満開だと…そう耳にしたので外に出たかったけれど、私は外に行きたいなんて言える立場ではありません。

巡察の同行、そしてごくたまに外に連れ出してもらえる事、それが私が外の世界を見る事が出来る手段です。

巡察は当然ですが遊びではありません。

毎回毎回何かの騒ぎに遭遇し、京の街は私が思うより荒れているのだと思い知らされます。

それに私のやるべき事は、父様を探す事。

だから気を抜いてなんかいられない。

でも、毎日毎日気持ちが張り詰めているとやっぱり疲れてしまうわけで…。










お天気のいいある日、私を外に連れ出してくれる人がいました。

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私が梅を見たいと言っていると、誰かから聞いたのでしょうか?

辿り着いた先は…紅梅が満開です。

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桜とは違う、濃い目の紅色が綺麗です。

長居をしてはいけないと思いつつ、でもどうしても目が離せない。

梅の木のを見上げながら佇む私をその人は咎めるわけでもなく、黙って私の近くに立っています。

(お花見…しているんだよね。きっと…)

あまりの美しさに「綺麗ですね」なんてありきたりな言葉を口にするのはつまらない気がして、私もただ黙って梅の花を見つめていました。





帰り道もただただ黙って、その人の後ろをついて歩きました。

(お礼を言いたいけれど、なんだか話づらい。だって気を遣わせてしまった事が申し訳ないんだもん…あっ…)

「椿!」

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「赤、それから白も。綺麗…すっかり春なんですね」

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そうだな…と短い返事が返って来ました。

きっとこの人も春を堪能している。

あたたかい春を待ち焦がれない人など、きっといないから。

「お忙しい中、色々とお気遣いありがとうございました。おかげで今日は春をたくさん見つける事が出来ました」

こんなにも簡単で短い言葉で感謝の気持ちが伝わったのかはわからない。

でも一瞬だけ笑った気がしたから…もしかしたらちゃんと届いたのかもしれない。

そう思う事にします。