
私は男派!
本文はここから女として生まれてしまった事に後悔はありませんが、男として生まれた方が可能性は広がると思います。
大きな夢を抱く事もそれを叶える事も出来ると思うから。
それに私が男であれば、父の仕事の『手伝い』ではなく、いずれ父の仕事を『継ぐ』事も出来たと思うから。
…今はその父を探しに向かった京で思わぬ事態に巻き込まれ、それどころではありませんが(苦笑)
「いいよな~千歳はよ。女なんだから。」
「平助君、どうして?どうしてそう思うの?」
「やっぱ女だから色々優遇されてんじゃん。皆何かと千歳に甘いしよ。」
「それは…私は隊士じゃなくて…名目上は客人扱いだし…」
私は正直言って隊士にもなれない、客人としても中途半端な自分の立場がすごく嫌だった。
同じ時間を過ごしながら自分一人が取り残されている事に、一種の不安と寂しさを感じていた。
「千歳が来る前にさ、一人居候がいたんだぜ。当然そいつは男だったんだけどさ、当時の局長…あっ、近藤さんの他に局長がいたんだ。その局長に可愛がられて可愛がられて…いや~あれはひどい有様だったな。」
「…可愛がられてたんだったら、その人は幸せだったんじゃない?ねぇ平助君、その人今はここにいないの?」
「あ?あぁ…うん…色々…あってさ…まっ、千歳には関係ない話だから気にすんなよ。」
何かと立ちふさがる『関係ない』という名の見えない壁。
もし私が男であれば…この壁を越える事は出来たのだろうか。
「もうちょっと…ちょっとだけ辛抱な。さすがに土方さんだって千歳を一生軟禁状態にさせとくわけねぇだろうし。綱道さんが見つかって事が全部解決出来たら、江戸で元通りの生活が送れるって!慣れない男装させられて、血生臭い環境に押し込められてさ、すっげー窮屈だろ?」
「えっ?あっ…う…うん…そう…そうだね…」
【そんな事ないよ】
本当はそんな言葉を口にしようとしていた。
それは社交辞令ではなく本心だった。
今置かれている環境が楽しいとかそういう意味ではなく…
彼らとともに歩きたい、彼らを追いかけたいと…そう思っていた。
「そうだね…江戸に帰りたいな。うん…帰りたい…父様と一緒に…」
心からそう思っているのに、嘘偽りなど一つもないはずなのに、どうして言葉がつまるのだろう。
私は…
私は狂っているのかもしれない

彼らと出会ったあの夜から

あの美しい鬼に出会ったあの時から

運命が狂い始めたように私も…
私自身も…きっと狂い始めたのです。
「あ~こんな夜遅くまでつき合わせてごめん!俺、そろそろ行くわ。」
「ううん、気にしないで。私も暑くてなかなか寝付けなかったから。平助君とお話出来て楽しかったし。少しだけ涼しくなってきたかな?平助君、ゆっくり眠ってね。」
「おう!千歳もな。いい夢が見れるといいな。んじゃ、おやすみ!」
「おやすみ。平助君もいい夢が見られるといいね。」
立ち去る平助君の背中を見送り、自分の部屋へと戻りました。
灯りを消してお布団に横になり、小さくひとりごちてみる。
「いい夢…見られるといいな。」
そしてそっと目を閉じました。
私は今夜夢を見る。
私は浅い夢を見る。
あの空を翔ける夢を。
彼らと共に浅葱色の空を翔ける夢を。
目が覚めれば解けてしまう…淡く儚い夢を見る。