風の音色 | 千歳日記

千歳日記

この先にある未来を…

たとえどんな未来でも私は見届けてみせる

最後まで…必ず

田舎帰る? ブログネタ:田舎帰る? 参加中
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田舎へ帰るか…ですか。

帰りたいです、江戸にある自分の家に。

江戸に旅立った父を探しに京に来てから、どのくらい経ったのだろう。

こんなに長く家を空けるつもりなんてなかったから…今頃家はどうなっているんだろう。

もしかしたら父様が江戸に戻っていて、私がいない事を懸念しているかもしれない。

違う。

父様が江戸に戻っていれば、きっと松本先生の元に何らかの知らせがあるもの。

ふぅ…

ため息をついたところで帰れるわけもないので、今日も自分の仕事を片付ける事にします。




と言ってもこの陽射し、この気温、少し動いただけで汗が出て、一仕事終えた頃には汗が流れ出る状態です。

襖を開け風通しを良くしても部屋に届く風などたかが知れていて…しかも熱風です。

「江戸はもう少し涼しかった気がする…。外から気持ちのいい風が入ってきて、風鈴の涼しげな音が響いていて…」

(新選組の屯所に風鈴…似合わない上にすぐに破壊されそう(汗)。そうだな…鉄の風鈴じゃないとここでは生き延びれないかもね(笑))

思わず笑が漏れて一人でクスクスと笑っていると

チリン

(ん?)

風鈴の音が耳に入りました。

その透明な音は鳴り止まず、段々と近づいて来るように思えます。

(不味い…暑さでやられて幻聴が聞こえるようになったのかも。その内幻覚まで見えるのかもしれない…)

「おい…。」

(風鈴の音に続いて人の声まで…)

「…聞いてんのか?」

(しかも聞きなれた声の幻聴…)

「千歳…」

(幻聴までしっかりと私の名前を呼んでる…まっ末期!?)

恐ろしさのあまりにしゃがみ込もうとした瞬間

「てめぇいつまでぼんやりしてやがる!人が呼んだら返事しろ!てめぇのその耳は節穴か!!」

「はい!はい!ごめんなさい!」

恐ろしい怒鳴り声に震え上がり、私はその場で棒立ちになってしまいました。

「どいつもこいつも暑さでぼんやりしやがって。土産を受け取るだけで棒立ちになる馬鹿がどこにいやがる!」

「はい!申し訳ございませんでした!」

わけも分からず謝りながら顔を上げると、目の前には鬼のような形相をした土方さんがいました。

その手には何故か風鈴が一つ…。

「ちっ…部屋のどこかにぶら下げておけ。これ以上ぼんやりしてやがると承知しねぇからな!」

「はい!すいません!」

「すいませんじゃねぇだろうが…。」

「あっ…えっと…ありがとう…ございました。」

「…ふん。」

ドカドカと立ち去る土方さんを見送り、私は手渡された風鈴をじっと見つめました。

「土産とか言ってたけど…いいのかな、私がもらって。」

チリン

風鈴は風に吹かれて涼しげな音を奏でています。

「うん…一番風の通る場所に下げよう。他の部屋にもこの音が届くように。」

私は少し背伸びをして風の通り道に風鈴を下げました。

$千歳日記

チリン 

懐かしい音色が耳に届きます。

チリン

風が吹いて

チリン

少し熱い風が頬をくすぐります。

そっと目を閉じてみました。

江戸の家に帰ったのだと…そう想像してみました。

「…駄目だ!」

ここは江戸の家ではないと、思い知らされただけでした。

竹刀のぶつかる音、隊士さんたちの声、楽しそうに騒ぐ声…江戸の家では聞こえなかった音ばかりが耳に入ります。

ここは私が帰りたい家ではありません。

それでも今はここが私の居場所で、今はここが私の帰る場所なのです。

だから田舎へ帰るのは、暫くの間はお預けです。