昨晩は満月でしたね。
私の目には白く微かに光る月の周りに、ぼんやりとした輪のようなものが見えました。
月暈という現象だそうです。
暈は輪の事です。
この月暈という名前、今朝紙に書き出して漢字だけはわかっていたんです。
でも、この漢字の読み方がわからなくて(苦笑)
昨晩見たの月の話をしようと土方さんに話かけたものの、読み方がわからず言葉がつまってしまいました。
しかし私が声をかけた以上、話を進めなくてはいけません。
恥だとわかっていましたが、紙を土方さんに見せて素直に「読み方がわかりません」と言いました。
「…それは『つきかさ』って言うんだ。ちゃんと憶えとけ。」
聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥
そう思えば、どれだけ恥をかいても、聞いた甲斐があると私は思います。
でもそれを憶えなければ、ただの無駄な時間になってしまいますけど(苦笑)
霞がかった淡い光りを、私は部屋の中からぼんやりと眺めていました。
その晩私は、部屋から出る事を禁止されていました。
「今晩は満月だな…。千歳、今晩は絶対に自分の部屋を出るな。廊下にも出るなよ。それから、万が一大きな騒ぎが起きても絶対に気にするな…と言っても無駄だな。とにかく、部屋を出なければ、命の保障だけはしてやる。わかったな?」
理由など聞けるハズもありません。
これ以上新選組に関する『秘密』を私が知れば、私の命の保障は確実になくなります。
私はただ「わかりました」とだけ返事を返し、黙って部屋へ戻りました。
土方さんからきつく言われていたため襖を少し開けて、その隙間からじっと月を眺めていました。
今晩の月はなんだか小さくて、いつもならよく見える模様も見えません。
そういえば月の表面の模様は『くれーたー』と呼ばれていますね。
暗く見える部分はくれーたーの少ない平原で『海』と呼ばれ、明るく見える部分はくれーたーが多い『山岳地帯』と呼ぶそうです。
『海』と言っても月には水がない事は…皆さまの方がよくご存知ですよね。
そして月の模様は、この国では兎がお餅をついている姿に例えています。
海の向こうにある国では女性の横顔、本を読む少女、蟹に例えられたりしています。
説明を見れば、不思議な事にどの説も納得が出来ます。
でも私は、兎がお餅をついているという説が一番好きなんです。
月に住む兎が一生懸命に杵と臼でついたお餅…すごく美味しそうじゃないですか?
もし、私があの月面に足を下ろす事が出来るというのなら、絶対にお醤油ときな粉を持参します!
それか…そうです!島田さんお手製のあんこ!
…意外と手荷物が多くなりそうですね(汗)
「…風が冷たい…もう寝ようかな?」
月の兎と一緒にこの青い星を眺めながら、一緒に搗きたてのお餅を食べる日…そんな日を夢見ながら、私はそっと襖を閉じました。