先日、永倉さんの巡察に同行していた時、朝顔に似た形の花を見つけました。
「おっ!白い朝顔か?」
「でも、葉の形が違いますし、花もすごく縦に長いですよ。」
二人で眺めていても、一向に花の名前はわかりません。
少し離れたところに、今度は緑色の実を見つけました。
どうやらこの花の実のようです。
他の実には、おしべの残骸らしきものがついていました。
「花はこんなに綺麗なのに、実は『誰も寄せつけないぞ!』といった感じで…完全武装されていますね。」
「そうだな。楔帷子で武装して敵陣に乗り込む俺たちみてぇなもんか!まぁ…俺たちは花みたいに綺麗なもんじゃねぇがな!」
「そうですか?」
がははっと大きな声で笑う永倉さんに声をかけると、永倉さんはきょとんとした顔で私の顔を見つめ返しました。
「皆さんの心は、この花のように穢れなく美しいものだと私は思います。だから信じる道を進める。迷わず自分の信じる道を…自分が目指す道を…。」
「ん…まぁあな…ん~たとえそうだとしても、俺達がこの白い花ならとっくに血の赤で染め上げられちまってるぜ。『人斬り集団』なんて言われてるくらいだからな。」
永倉さんは少し居心地悪そうに、頭を掻きながら白い花に手を伸ばしました。
「正義を盾にしてるだけじゃないのかって…正直疑問に思う時もあるけどよ、やっぱりこれが俺の生きる道なんだろうな。刀は捨てられねぇ!俺の体の一部分だからな。」
「…人を斬る事が正しいのか正しくないのか、正義なのか悪なのか、私にはわかりません。でも、私は皆さんの剣に何度も助けられ、何度も命を救われました。それは皆さんが『人の心』を捨てていないからだと…私は思います。たとえその手が血塗るられていたとしても、心まで血で染める事は出来ないんじゃないですか?それではただの『鬼』になってしまいます。」
「鬼…ねぇ…。そうだな鬼になっちまったら…花を愛でる事も、忘れちまうのかもしれねぇよな。」
永倉さんの発した『鬼』の言葉が、私の心に何故か引っかかりました。
あの日、山南さんが不意に洩らした言葉。
『山南さんは山南さんです。たとえどんな姿になっても…』
『鬼になっても…ですか?』
(京の町に鬼が出るって噂も聞くし…なんなんだろう『鬼』って…なんだか…怖い。)
「あ~わりぃ…な~んか辛気臭くなっちまったな。ここのところ陽の落ちるのが早くなって来た。千歳ちゃん、急いで帰ろうぜ。」
永倉さんの大きくて温かな手が、私の背中を軽く叩きました。
「はい。帰りましょう。」
温かな熱を与えられたと同時に、心に立ち込めていた薄暗い雲も晴れた気がしました。

