はじめまして。
雪村千歳と申します。
私は今事情があって、新選組の皆さんと暮らしています。
一緒に暮らす…と言うのは少し違いますね。
私は『客人』という名の厄介者ですから。
でも、皆さんよくしてくれてます。
最初は怖くて…『何で私が』って思ったけど、今は少しだけ違います。
でも、私が厄介者である事には変わりないんですが…(苦笑)
私は自由に外に出られるわけでもなく、ほとんどを屯所の中で過ごしていました。
一日何をしているかと言うと…
屯所のお掃除とか
炊事当番とか
あとは部屋で本を読んだりの毎日です。
しかし先日、ちょっとした転機が訪れました。
それは夕餉の時間、珍しく幹部の皆さんが勢ぞろいしたあの日、近藤さんの一言から始まりました。
「雪村君はトシの小性だろ?そうだ!トシ、そろそろ雪村君に簡単な雑用を任せてみたらどうだ?」
小姓…
それは皆さんが私の処遇に困り果てていた時
「……そうだ!トシに任せれば安心だ。うむ…トシに小性がいればトシも助かる。これで万事収まるではないか!!」
と、口約束よりも軽い、まったくの成り行きで出た言葉です。
「ちょっと待ってくれ近藤さん…俺は…」
土方さんが反論しようとしたその時、
「そうだよな~、あん時近藤さんは土方さんに任せれば安心だ!って言ってたよな。」
「千歳ちゃんも毎日毎日むさ苦しい屯所の中で、俺たちの世話係だけやらされてちゃ…息が詰まるよな。」
「そうだな。簡単な雑用を任されただけでも、今より少しは行動範囲が広まるんじゃねぇか?」
「そうですね…土方君はとても忙しい人だ。猫の手も借りたい…いえ、雪村君は猫よりはずいぶんマシだと思いますけどね。」
「クスクス…よかったね、ただ飯くらいの猫以下の存在から、『新選組副長の小姓』に格上げされるなんて。」
「総司!口が過ぎるぞ。山南さん、雪村は猫ではない。…この件に関しての決定権は副長にあります。俺は副長の判断を信じ、それに従います。
どう見ても、皆さんの顔は「よかった」ではなく「面白い事になりそうだ」と言った感じで、肝心の土方さんはと言うと、今にも手にしているお箸を折ってしまいそうなくらい怒りで震えていました。
「てめぇら…俺が黙ていれば好きな事ばっかり言いやがって…俺はな…」
「うむ…皆もそう思うか。うん…雪村君!客人である君に、更なる雑用を押しつけるようで心苦しいのだが…この通りだ、トシの小姓役を受けてはもらえないだろうか。」
私に拒否する言葉を口にする権利があると思いますか?
ましてや新選組局長であり近藤さんが大きな体を折り曲げて、私に深々と頭を下げてお願いをしているのです。
「近藤さん、やめてくれ。こんなガキにアンタが頭を下げる必要なんざねぇ。」
「しかしだな、トシ…」
「あの…」
なんとか言葉を絞り出した私に、皆さんの視線が集まりました。
「あの…近藤さん、頭を上げてください。」
言葉を紡ぐ私の心の中に、なんだか不思議な感情がわき上がっていました。
きっと次の言葉は、その感情が私に言わせたのだと思います。
でなければ…こんなにもずうずうしい事を、私が言えるハズがありません。
「もし…もし…ご迷惑でなければ…その…私にやらせてもらえませんか。どんな雑用でもかまいません。絶対に皆さんのご迷惑にならないようにしますから…その…土方さんには絶対にご迷惑をかけませんから、どうぞお願いいたします。」
下げた頭の上で響く土方さんの大きなため息と、近藤さんの感嘆の声。
面白がっている…とか言い様ない、皆さんの言葉が部屋に飛び交いました。
私は頭を上げ、土方さんに向き直ってもう一度頭を深く下げました。
「…ちっ、勝手にしろ。」
私に向けられたのは承諾でもなく、拒絶でもない言葉。
それでも拒絶されなかったという事実は、私にとってとても嬉しい事だったのです。
そして翌日
「おい…」
「はい?」
土方さんは私に筆と硯、そして数枚の紙が差し出しました。
「これに何でも好きな事を書け。仕事の愚痴でもなんでもいい…その日にあった事、辛い事、哀しかった事、お前の好きな事を書け。その代わり、俺に泣き言を言うな。文句も言い訳も一切受けつけねぇ。泣きたければ、俺のいないところで泣け。俺に泣き言を言うような小姓は必要ない。そんな小姓をそばにおいて置く気も一切ない。いいな、わかったか。」
いつもと変わらない仏頂面で私の手にこれらを押し付けると、そのまま黙って副長室へと戻って行ってしまいました。
ぶっきらぼうではありましたが、これは土方さんなりの気遣いなのだと…私はそう思いました。
少しだけ動き出した、私の新しい日常。
そんな日々の中で思った事、感じた事を、これから少しづつ綴って行こうと思います。