「スマート・テロワール」松尾雅彦 著 学芸出版社 | 地方創生のよもやま

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このメルマガでも時々登場する総務省(現在内閣府出向中)の井上さんのブログで紹介されていて手に取った1冊

(井上氏ブログ 地域づくりは楽しい)
http://blog.livedoor.jp/sekainotakachan/archives/68827798.html

著者は、元カルビー(株)社長でNPO法人「日本で最も美しい村」連合副会長。ポテトチップス用のジャガイモの契約栽培を推し進め、カルビー、農家双方にとって持続可能で安定した関係を実現した経験や、ヨーロッパの農村がこの三十年位で活力を取り戻した多くの事例を踏まえての提言。

 

 


著者の提唱している内容は、私の理解したところによると次の通り
 

・農村地域を自然環境や歴史的つながり、郷土愛、現在の経済圏など、地元住民から見て一体感のある地域を地域経営の単位として、自給圏、新たな経済圏「スマート・テロワール」を形成
 

・コメの需要減で過剰になっている水田を畑地に転換して小麦・大豆・子実トウモロコシ等による輪作体系を確立し、地域内での耕畜連携を進めるとともに、地域内で加工し地域で消費する仕組みを確立することで、地域における食料自給率を高める。
 

・これらにより地域に働く場をつくることで、特に女性の農村回帰を実現し、少子化・人口減少に歯止めをかけ農村に活力を生み出す。
 

 
 「スマート・テロワールを構築し、自立を成し遂げようとする住民たちは、地域社会の可能性に「責任を負うこと」によって自由を謳歌し、活発に活動することになるでしょう。また、そのような空気を求めて都会から元気な人々が農村にやってきます。向都離村した女性たちも食と自立を求めて帰村します。若者が新しい農業にチャレンジして、人口減少が解消するはずです。お上からの支援ではなく、住民が作りたい農村は、住民の消費生活を変えること、お金の循環を変えることでつくられるのです。」(P206)


まさに地方創生の理念そのものだと思います。
コロナ騒動で地域で自立した経済圏を構築することの重要性を再認識した今日。
持続可能な地域をつくるうえでの王道ともいえる考え方だと感じました。


また、紹介されているカール・ポランニーの経済人類学の考え方も興味深い。

競争・交換に立脚する市場経済のみではなく、より健全な社会システムである
再分配(国家による税と給付による再分配)
家政(自給自足の経済)
互酬(「つとめ」としての贈与関係や相互扶助関係)
の3つの非市場経済を含めて経済を運営することの重要性が説かれている。


2014年に出版されていて、今確認してみると、通っている図書館や職場の書店にも並んでいたのになぜ今まで手に取らなかったのだろうというような内容。
(ちなみにその訳は、「テロワール」という言葉がピンとくるようになったのはごく最近なので、おそらく目には入っていたであろうタイトルを見ても何のことかピンとこなかったのだと思われる。)


山形での実践例を踏まえた実現に向けた具体的な提言もいろいろなされているので、多くの人に読まれてこういう方向に一歩踏み出す地域が増えるといいなと思います。