「地方暮らしの幸福と若者」轡田竜蔵 著 勁草書房 | 地方創生のよもやま

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広島県で筆者が実施した若者へのアンケート調査をもとに、地方暮らしの若者の現実に光を当て、その幸福の成立条件と社会的課題について考察しようという1冊
 
今回は第Ⅰ部より
 
第1章は、地方暮らし近辺の先行する色んな論文・著作を俯瞰的に紹介
 
興味深かったのは
「ほどほどパラダイス(阿部真大)」「下流社会(三浦展)」などとやや否定的に紹介される、消費社会に受動的な地方都市の消費環境における幸福観と、
「まちの幸福論(山崎亮)」など、個人の幸福にとどまらない「さまざまな幸福を実感できるまちづくり」を追求する幸福観
 
の、対極的に位置づけられている2つの価値観について、筆者は、調査結果から条件不利地域においても両方の価値観の若者が存在し、居住歴、友人や家族との関係、地域活動との関わり方、といった個人の諸属性によって分断されていることを指摘したうえで、その意味を分析する必要性について指摘している点。
 
どんな分析がなされているのか第Ⅱ部に期待したい。
 
 
第3章は、地方暮らしの幸福を規定する要因について、筆者のアンケート調査結果等からその傾向を明らかにするもの
 
筆者の調査の舞台は、広島市近郊の広島県府中町と、里山資本主義の舞台でもある広島県三次市。
 
興味深かったデータは
「地元以外で暮らした」ことのある者のほうが「ずっと地元」である者よりも「毎日の生活が楽しいと感じられる」比率や、「自分の現状に満足している」比率が有意に高い。(P118)
(参考)(三次市の若者データ)
毎日の生活が楽しい 地元外経験あり:69.7%、ずっと地元:53.8%
自分の現状に満足  地元外経験あり:60.1%、ずっと地元:52.0%
 
というもの。
 
 
調査結果で、地域活動、社会活動に参加している者の各種満足度が高くなる傾向にあることを踏まえ
狭い地域の人間関係にとどまっている者よりも、活動の場が地域をこえて広がっている者たちのほうが満足度の高い暮らしを送っている(P123)
とし、
 
地域外経験の有無との関係については
Uターン層のポジションは、転入層と同じく地域に対して外部の視点を持ち、なおかつ同級生関係などの地元の人間関係をリソースに使うことができるという意味で、ソーシャル・ネットワークに恵まれ、諸活動のハブになっている(P119)
との見解
 
 
地域の活力を維持するために地域に若者を定着させるには
1.Uターン層の成功モデルをまず確立する。
2.そのうえで、Uターン層との関係性により関係人口や転入層を引き寄せる。
こういうモデルを作ることができれば、うまくいくのでは
なんてことを考えました。
 
 
その他気になった部分を紹介
 
ウェブ社会化とりわけSNSの発達によって、同級生つながりを中心とした地元の友人関係が維持しやすくなり、その相対的重要性が高まった(P46)
「福井モデル」は親との相互扶助が可能な地元居住を前提としている。それは、家族主義的な幸福モデルであり、家族資源を利用できない転入層はそこから排除されているという点から、これを過大に評価することはできない。(P88)
 
次回は第Ⅱ部を紹介したいと思います。