ありがとう | 皐月桜に出会うまで -私たちの家族日記-

皐月桜に出会うまで -私たちの家族日記-

なままと申します。現在37歳。大学同級生のちーさんと2014年結婚。その後6年半の不妊治療を経て、リプロ東京にてサクラ咲きました✿2023年5月ついに待望の我が子と対面。
ちーさん、なまま、すーちゃん✽家族三人の軌跡✽
旧ブログはこちら→https://ameblo.jp/namama2017/



一年前、5月2日。

心地良い春風が吹く、
よく晴れた日の午後。

私は一人のちいさな女の子と対面した。


逆子での予定帝王切開。

主人の立会いやカンガルーケアは無く
お腹から取り出されてすぐに
先生達の待つ保育器へ行ってしまったけど、

私の寝ている手術台の遠く左側、
時折聞こえる泣き声と元気に動く手足に
経験したことのない感動で胸が一杯になった。

やがて看護師さんに抱かれてやってきたその子は
何もかもがとても小さくて、
でも私の指をぎゅっと握ってくれた手が力強かった。

初めてこの腕に抱っこできたのは、
翌日のNICU訪問でのこと。

お顔もこの時ようやく
ちゃんと見ることが出来た。

なんて可愛いらしい子なんだろう。
自分の子だなんて嘘みたいだと真っ先に思った。

気持ち良さそうに寝息をたてる我が子を
起こさないようタオルごしにそっと抱きかかえる。

ずっしり重いのにフワフワ、なんて
何だか相反する表現だけど、

この重みは命の奇跡そのもの。

そして本当に空から舞い降りてきたばかりのような
雲のように柔らかくて優しい、無垢なぬくもり。

カーテン仕切りの中でこの子と二人きり。

「時間は気にせず存分に抱いてあげてください」
そう言ってくださった看護師さんの言葉に甘え、
腕がしびれるまでずっと抱いていた。

一日中でも抱いていたい気持ちだった。


この子は私の子だ!と
世界じゅうに向けて叫びたい衝動に駆られた。

今まで何年もの間、散々目をそらしながらも
街ですれ違う家族連れを羨望のまなざしで見ていた。

よちよち歩きの子が呼びかける
可愛いらしい「ママ〜」の声。

でもそれは私のことでは無いのだと
切なく思う時も多かった。

だけど、この子が足に付けているネームタグには
私の名前が書いてある。

この子は私の娘。

これからずっと一緒にいる
私たちの大切な家族。



あまりに幸せすぎて、毎日が尊すぎて。

夢を見ているかのような感覚が
夏を越え、秋を越え‥何か月も続いていた。

不妊に占拠された頭の中を
母親に切り替えるのは大変だったけれど、
初めてだらけの世界の中で
私がこの子を育てる以上に
この子が私を育ててくれた。


寝不足に、体のあちこちの痛み。

平日休日問わず、
もう自分の好きになんて過ごせやしない。

でもこの子のお喋りや笑顔たったひとつで
こんなにも幸福な気持ちになること。

スマホの写真フォルダが
あっという間に増えていくこと。

我が家が笑い声で満たされること。

たった一年足らずで180度変わった世界は、
この子が五月の薫風とともに我が家に運んできた
宝箱のようなキラキラした世界だった。


この子と一緒にしたいこと、行きたい場所。
新しい夢もたくさんできた。

手をつないで公園に出かけて
遊具で思いっきりはしゃぎたいとか
買い物帰りに寄り道して
一緒にアイスクリームを食べたいとか、

やんちゃ盛りの日々を想像すると
早く成長してほしい気持ちもあるけれど、

ずっとこのまま、
腕に抱っこできる大きさでいてほしいとも思う。


今こうして仕事に出て一日を頑張れるのは、
家に帰り、この子を抱きしめる喜びがあるから。

この子のずっしりした重さや優しいぬくもりが
愛おしくて、愛おしくて。

この世界を生きることの奇跡と喜びの全てが
この子に詰まっているような気がしている。


きっと支えられているのは私のほうで、
甘えさせてもらっているのも私のほう。


撫でる頭は私の片手のひらに収まるほど小さく

自分の足で歩くこともまだできない。

でもいつだって頼もしく
未来を照らしてくれるこの子は、

今や我が家を支える幹であり、道標。



生まれてきてくれてありがとう。

私たちの子になってくれて
本当にありがとう。


5月2日は、私たちにとっても
「ありがとう」の記念日です。