これは、スペイン語でもラテン語でもない。
宮沢賢治 『永訣の朝』の一節。
いつも賢治のことを心配し、近くにいてくれた妹のとし子が
亡くなるときの様子を歌った詩。
『おら おらで しとり えぐも』
-私は私一人で逝きます。
他にもとし子のことばは何度も詩の中に出てくるのだけど
ローマ字で書いてあるのはこのことばだけ。
初めてこれを読んだとき、私はラテン語だと思った。
ラテン語で 「Ora」 とは 「祈りたまえ」 という意味。
Ave Maria では この Ora を繰り返すことも多く、
とし子が「私のために祈ってください」と
言っているかのように思った。
もちろん、ほんとはそんなことあるはずない。
賢治は熱心な仏教徒だったから。
賢治はきっとこの言葉だけでも、
正しい発音でほんとのとし子のことばで伝えたいと思って
ローマ字にしたのかもしれない。
けど、そこに偶然生まれたこの「祈りたまえ」という意味は
ただの偶然なのではないような気がしたんだ。