前時代的な解剖の中で
解剖の学者で医師のアンドレアス・ヴェサリウス(1514年-1564年)は、ブリュッセルに薬剤師の子として生まれた。
"現代人体解剖の創立者"といわれるヴェサリウスが、弱冠27歳で著した解剖学書、「ファブリカ(人体の構造についての七つの書」は、約300の木版解剖図が掲載されているが、筋肉の走行、位置、重なりかた等が非常に精緻に描かれ、人体解剖で最も影響力のある本として知られている。
当時の多くの解剖学者は、古代ローマ時代のギリシャ人医師ガレノスが残した解剖学書をもとに学問を発開していた。
しかし、ガノレスの医学には多くの誤りがあった。ガノレスの時代には人体解剖はほとんどなされておらず、サル等の動物の解剖から書かれた医学書だった。
16世紀になっても、解剖の現場にあっては、教授達は弟子にメスを握らせ、絶対的権威であったガノレスの教科書に書いてあることを確認するだけだったという。
現代の医学の源流として
そのような医学が主流だった時代に、ヴェサリウスは自分でメスを執って解剖を行った。ガノレスの教科書を熟読し、他の文献も参考にしたうえで、さらに自分が実際に見たものを検討し、体系化していった。
こうしてまとめられた著書が「ファブリカ」である。ヴェサリウスがこのような働きをしたのは、時代の流れの中で必然だったともいえる。
彼が生まれた1514年は、ダ・ヴィンチの最晩年、少し前にエラスムスが「痴愚神礼賛」を発表。ルターの宗教改革は、1517年に始まっている。「ファブリカ」が世に出たのと時を同じくして、コベルニクスが地動説を発表した。
「自分の目で見て、自分の頭で考える」実際的な科学の時代の到来であった。ヴェサリウスは古代ローマ以来の古色蒼然たる解剖学を、医療の実際に使える科学に引き上げたのである。しかし、当時の学者達からは厳しい攻撃を受けた。そのような中でつくりあげられたヴェサリウスの正確な解剖学は、現代の医学の源流のひとつといえる。
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