ミサ曲 ハ長調(「聖三位一体の祝日のミサ Missa in honorem Sanctis-simae Trinitatis)K.167
作曲:1773年6月,ザルツブルク
出版:新全集 Ⅰ-1-1/2
編成:4部合唱,オーボエ 2,トランペット 4,ティンパニ,ヴァイオリン 2部,バス,オルガン
演奏時間:31分
解説
自筆譜に「聖三位一体を記念してのミサ」とあり、題名に用途が明示された唯一のミサ曲である。1773年の三位一体の祝日(一級大祝日)は6月5日であったことから、その日に初演されたものであろうが、大聖堂ではなく、大学教会か聖三位一体教会で行われたらしい。新全集によれば、その理由は独唱を全く用いないこと、トゥッティとソロの区別を明示するというオルガン・パートの記譜法がみられないこと、以上の2点がザルツブルク大聖堂での慣例から外れているからである。
ともあれ、終始一貫合唱に合わせ、ソロを一切排除するというモーツァルトの全ミサ曲にあって唯一回だけとられたこの異例な発想はどこ起因するのであろうか。教会ソナタ、書簡朗読も含めたミサに要する時間が45分を超えぬことを定めた大司教コロレードの着任から1年余り前。その困難な課題に対する解決策の一つがここに示されたと見なされよう。とはいいつつも、<グローリア>や<クレード>に終結のフーガを導入、オーケストラも豊かに鳴らせ、いわゆるポリテキスト構造を忌避したこの作品は、演奏機会の祝祭性の高さに十分に見合う壮麗さをそなえている。
Ⅰ.キリエ アレグロ ソナタ形式に擬した三部構成をとる。晴れやかに響き渡るオーケストラの前奏および間奏を特徴づけたヴァイオリンの逆付点リズムが合唱に伴ない、装飾的役割をも果たし、全体の統一感を生み出す因となっている。
Ⅱ.グローリア アレグロ これまた冒頭の明るい曲調が<クオニアム>以降に反復されるソナタ風の三部構成。展開部に相当する<クィ・トリス>以下の暗い緊張した和声が、前後の直線的な表現と対比、巧みに効果を挙げる。<クム・サンクト>のフガートがコーダとして続くが、これも伴奏音型を先行部と共有することで長い楽章のまとまりに貢献している。
Ⅲ.クレード アレグロ 序奏なし、いきなり歌い出す合唱に対置するヴァイオリンの軽やかな音型が全楽章に浸透、結果としてロンド風に構成されている。ただし<エト・イン・スピリトゥム>はト長調に転じ、拍子も変えて独立したエピソードとし、<エト・インカルナートゥス>もト短調アダージョの密やかな歌に変容する。暗く沈んだ滅7和音の推移句のあと、独立した終結のフーガ<エト・ヴィタム>が古雅な趣の主題により堂々と130小節を繰り広げられ、前半の頂点を形成する。
Ⅳ.サンクトゥス アンダンテ 長大な前章の反動か、歌もオーケストラもホモフォニーに徹して簡略にまとめられている。
Ⅴ.ベネディクトゥス ヘ長調 アレグロ たいていは独唱アリアの形をとるこの部分、トランペットと打楽器を休ませた和やかな響きの伴奏にその通例の名残が感じられる。十分な前奏と語句の反復を伴ない、先の<サンクトゥス>を埋め合わせるかのように意を尽くして歌われる楽章。
Ⅵ.アニュス・デイ アダージョ 全オーケストラに復しての序奏からピアノで合唱が低く祈りを始めるが、相変わらずヴァイオリンのリズミカルな伴奏音型を際立たせつつフェルマータの半終止へ。アレグロ・モデラートとなって<ドーナ・ノービス>の句により最後の多声的展開が果たされ、いわやる<アーメン終止>により全曲を穏やかに結ぶ。
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