今回は神聖ローマ皇帝のターレル銀貨をテーマです。
この銀貨は本当に繊細で、見れば見るほど難易度の高さを感じるデザインだとおもう。
精緻なデザインに加えて、歴史の重み、そして手にしたときのずっしりとした重量感が重なって、ただ美しいだけじゃなく「心に響くコイン」。
それなのに、まだ比較的安価で手に入るのが不思議なくらい。 日本市場では、欧米に比べて歴史的な意味合いをもつコインが人気が低いからかもしれない。銘文もラテン語で刻まれていて、馴染みがないことも理由のひとつに考えられる。
表面には「CAROL.VI.D.G.RO.IMP.S.A.GE.HIS.HUBO.REX」の刻印。この意味を調べてみると、カール6世、神の恩寵によるローマ皇帝、常に尊厳ある者、スペイン・ハンガリー・ボヘミアの王。でした。
このコインは1714年の発行。
兄ヨーゼフ1世の急死で急遽皇帝に就いたカール6世は、スペイン継承を断念していたはずなのに、銘文にはスペインが残っている。しかも20年後のターレルにも同じようにスペインが入っていて…その理由を調べてみたけど結果分からず…。
裏面には「ARCHIDUX AVSTRIÆ DVX BVR. & SILE」。 オーストリア大公、ブルゴーニュ公、そしてシレジア公。 「DVX SILE」の文字があることで、このコインがシレジア地方ブレスラウ造幣局で鋳造されたということがわかる。
双頭の鷲の尻尾の形も造幣局判定のヒントになるとか聞いたことがあるけれど、調べても情報を得られず、よく分からず…。実際に、ほかの造幣局で鋳造されたターレル銀貨を色々比較しても、はっきりとはわからなかった。
コインをイラストにする際、このような違いを理解しながら書きたいと思っているけれど、まだまだそこまで至っていない。貨幣学の奥深さを感じる!
コインの他の魅力はもちろん他にもあって、発行枚数でいうと、ブレスラウのターレル銀貨は発行枚数が少なく、とても珍しい。ブレスラウは全く知らない土地で、今回調べてみたところ、今のポーランド・ヴロツワフで、鉱山資源に恵まれ、商業都市として賑わっていたということを知った。1526年以降はハプスブルク家の支配下に入り、神聖ローマ帝国の造幣局も置かれた場所だという。
カール6世が1711年に皇帝になってから、ほんの短い間だけ銀貨が作られた。しかし、1742年にはシレジアの大部分がプロイセンに割譲されることになり、ブレスラウは二度と帝国に戻らなかったという歴史がある。この歴史をふまえると、神聖ローマ帝国がブレスラウで銀貨を発行したのは、この時代だけになったのではないかと思う。
シレジアを失ったことは帝国にとって大きな痛手で、長い目で見れば弱体化につながった。こういった数奇な歴史に想いを馳せると、ターレル銀貨についてより深く、理解していきたいと思う気持ちが強くなった。
