今回のお題は、グアテマラの20ケツァール金貨(1926年の単年発行)



アメリカの金貨といえば、ワシが爪を広げて飛び立つ。力の象徴として、空を割るような構図が定番だ。


一方、グアテマラの金貨に描かれているのは、尾羽をたなびかせて静かに枝にとまるケツァール。


同じ“国鳥”でも、語り口がまるで違う。


1926年、グアテマラ共和国が発行したこの20ケツァール金貨は、国鳥ケツァールを堂々と中央に据えた単年度発行の記念金貨。


直径約34mm、重さ約33.4g、金品位.900。


アメリカのダブルイーグル金貨とほぼ同サイズながら、語っているのは“力”ではなく“静けさ”と“自然の調和”のようだ。


ケツァールは、古代マヤ文明でも神聖視された鳥。羽は「殺さずに採る」ほど尊ばれ、自由と尊厳の象徴とされてきた。


この金貨でも、ケツァールはただ静かにとまっている。表情は可愛らしく、ワシのような爪もない。ただ、そこにいるだけで、何かを語っている。


グアテマラではケツァールが通貨単位にも採用されており、紙幣や硬貨にも頻繁に登場する。国の象徴としての扱いは、まさに“国鳥”の名にふさわしい。


アメリカのワシが「守るための力」を前面に押し出すなら、グアテマラのケツァールは、構図の中に静けさを残しているかのようだ。


どちらも国の誇り。でも、その誇りの“見せ方”が違う。


力で語るか、調和で語るか――金貨は、その国の美学を映す鏡なのかもしれない。


描いてみて気づいたのは、ケツァールのまわりに空間が多いこと。


尾羽の流れを活かすためか、中央にぽつんと配置されていて、余白が広い。

そのぶん、全体のバランスを取るのが難しかった。


静けさを保ちつつ、構図が間延びしないようにするには、鳥の角度や尾の微妙な曲線に頼るしかない。


結果として、描いている時間そのものが、ケツァールの“沈黙の構図”に耳を澄ませるような感覚だった。


ちなみに、今年は鳥マニア垂涎のイベント、『鳥展』が開催されており、ケツァールの模型が展示されていた。尾羽の長さと色のグラデーションが本当に綺麗で、金貨の中の姿とはまた違った印象だった。


動物園での飼育は極めて困難とのこと。いつか、現地で、“静かに”、本物を観察してみたい。