週一回ナワトル語のレッスンを受けている。文字どおり、六十の手習い。

 

中身が濃くて進み方が速いから一回休んだらついていけなくなるはずだし、授業中ほんの少しの余所見も居眠りもできない。全く気が抜けない。宿題も多い上に、予習復習をちゃんとやっておかないと次の授業についていけなくなる。

 

とにかく厳しい。だが、やればやるだけ力が付く。老骨ならぬ老脳に鞭打ってやっているが、やり甲斐は大いにある。

 

さて、どの言語にも特徴がある。

 

スペイン語は動詞の言語だ。それに対して、ナワトル語は「名詞の言語」だ。文の中で一番重要なのは名詞である、と私は思う。

 

それがよくわかるのが、活用の広さと複雑さだ。スペイン語の辞書には動詞の活用一覧が巻末に載っているが、初めてそれを見たとき私はスペイン語の習得を諦めた。奈落の底に突き落とされた。無理、私には無理だ。そう思いながらも、石に噛り付いてなんとか今日までやってきた。

 

一方ナワトル語では、これに相当するのが「名詞の活用(変化)」である。今ちょうど習っているのだが、まあこれが複雑怪奇、魑魅魍魎。一例を挙げると・・・

 

普通に「犬」と言えば「Itzcuintli」である。だが、その時々のニュアンスや条件 によって下のように変化する。

Itzcuintli 犬(全般)

Oquichitzcuintli 雄犬 

Cihuaitzcuintli 雌犬 

Itzcuintzin, itzcuintzintli(愛称)わんちゃん、(尊称)お犬様 

Itzcuintzizin, itzcuintzitzihuan わんちゃん達、お犬様達 

Itzcuintontli (蔑称)馬鹿犬、(年、体格)子犬、小型犬 

Itzcuintoton 馬鹿犬ども、若い犬達、小さい犬達 

Notzcuin  私の犬

Notzcuintzin  私のわんちゃん 

Notzcuintzitzin  私のわんちゃん達 

Notzcuintontli  私の馬鹿犬、私の子犬、私の小型犬 

Notzcuintoton  私の馬鹿犬ども、私の子犬達、私の小型犬達

Itzcuin in Xuan  フアンの犬

Itzcuintzin in Xuan フアンのわんちゃん、フアンのお犬様

Itzcuintzitzin in Xuan フアンのわんちゃん達、フアンのお犬様達

Itzcuintontli in Xuan フアンの馬鹿犬

Itzcuintoton in Xuan フアンの馬鹿犬ども

 

なんか、頭がクラクラしてくる。この手の言葉は、ルールを理解したうえで丸暗記するしかない。スペイン語の動詞の活用をやったときの悪夢が蘇る。ウー(うなされる声)。

 

でも、やるしかない。メキシコの伝統文化を理解して、アステカダンスを上達させ、伝統暦を読めるようになり、古来の智慧を日々の暮らしに活かすためには、どうしてもナワトル語を習得しなければならないのだ。やるぞ、やるしかないぞ。頑張れ、私。