徹夜して、床に入ったのは朝5時だった。

最近は寝つきが悪いうえに眠りが浅くて、やっと眠れたとしても2~3時間おきに目が覚める。ひどいときは1時間おきなんてこともある。

 

そんなこんなでやっと気持ちよく眠れていた最中に、耳をつんざく呼び鈴の音。誰だよ、こんな最悪のタイミングで!

 

 

「お早うございます!選挙管理委員会の者ですが、来月の選挙に向けた安全対策について説明しに参りました!お聞きになりますか?」

 

やる気満々で元気一杯の女子大生のような明るくて強い声が、寝不足の頭にガンガン響く。

 

「いえ、結構です」

ガチャンと受話器を置いて、布団に潜り込む。

 

又すぐに眠れるかなあ?と思いながらウツラウツラし始めたとき、又もやベルが鳴った。出るとさっきの女子大生声だ。何?まだ何か用があるの?

 

「あのぅ安全対策の説明をしたいのですが、先ほどなんて仰ったんですか?うまく聞き取れなかったものですから・・・」

 

「今は結構です、間に合ってますと言ったんです。取り込み中なので」と、ぶっきら棒に答える。

「あ、そうですか。失礼しました」スゴスゴ退場。

 

あの人が悪いわけじゃない。いい事をしに来てくれたのだが、タイミングが悪かったのだ。ごめんよ。

 

 

それにしても、

私にこの国の選挙権はないが、これまでに何度も選挙の時期を過ごしてきた。でも一度として選管が安全対策を説明しに来たことなどなかった。一体どうしちゃったのか?まあ良い事のようではあるが・・・

 

そんな事をツラツラ考えていたら、何年か前の出来事を思い出した。

 

あれは確か、前回の大統領選挙のときだった。投票日の未明(明け方?)に突然ドーンとかボンとかいう音と強い振動がして、びっくりして目が覚めた。慌てて外を見ると、向かいの家の窓ガラスが炎で真っ赤に染まっていた。

 

え?!お向かいさんが火事?

でもよく見ると、向かいの奥さんも私と同じように窓から外を見ている。慌てて逃げる様子はない。どうやら向かいの家が燃えているのではなさそうだ。じゃあどこが?

 

 

何が何だかわからなかったが、とにかく夫を起こした。夫は「こりゃまずい。とにかく様子を見てくる。お前は中に入っていろ」と言って飛び出して行った。しばらくして戻って来た夫から、我が家の2軒先の家のガレージで車が燃えている事を聞いた。ということは、1軒違っていたらうちの隣が火事だったってことだ。ゾッとした。背筋が凍るとはこのことか。

 

夫が言うには、今のところ燃えているのは車だけで、まだ家には燃え移っていない。自分と同じように出て来た近所の人達が消防に電話したはずだが、念のためにお前も通報しろと言う。通報の件数が多い方が向こうも真面目に取り合ってくれるから、と。

 

でも消防車が到着するまでは自分たちでできる限り消火しなければ、と夫は言う。すると、ご近所さんたちが銘々庭のホースを精一杯伸ばして水を掛けたり、バケツリレーをしたりし始めた。女たちは家に残り、男たちだけでその作業をしている。なかなかに頼りがいがある風景だった。ちなみに、その時一番活躍したのは我が夫だった。家が近いから深刻度や真剣度が違ったということもあるかもしれないが、格好良かった。惚れ直した。

 

やがて消防車が到着して火は消し止められたが、眠れないまま夜を明かした。

 

後からわかったことは、その家には保守派大政党の州本部長の母親が住んでいたとういうことだ。選挙の当日、投票が始まるほんの数時間前の出来事だったので、政敵からの脅しや牽制か、それとも党内のイザコザの結果かと色々噂は飛び交ったが、結局真相は闇の中だ。

 

そんなことがあったなあ、と思い出した。こんな物騒な国だから、たしかに選挙の安全対策を実施することは必要なのかもしれない。話、聞いておけばよかったかな。

 

 

※徹夜する・・・Desvelarse

※不眠症・・・Insomnio

※消防・・・Bomberos

※消防車・・・Camión de bomberos

※政党・・・Partido político

※保守派・・・Conservador