【作品集】蒼色で桃色の水 -9ページ目

【作品集】蒼色で桃色の水

季節にあった短編集をアップしていきます。

長編小説「黄昏の娘たち」も…

 七人と一匹は二台の車に分乗して焼失した教会を後にした。

ジョージは無線の周波数を警察関係に合わせると再び傍受仕始めた。

亘は先程から携帯電話で何件も電話を掛け色々な手配をしている。

礼二は先程までの戦いを振り返っていた。どうして神父や唯一は躊躇無く元は同じ人間だった奴等を倒せるのだろうかと、自分も十代の頃は相手構わず喧嘩をしたり暴走していた。何も考えずに殴り合いをしていたのに、それに知識もあるなのにさっきの戦いでは足が竦んでいた。自分はいつからこんな弱い人間になってしまったのだろうか?否、初めから弱かったのだ。だから虚勢を張っていた。次の戦いでは強くなければならない。世界を救うのだ!意識を集中仕始めていた。

黎明は前の三人が乗っている車からはぐれないように運転しながらも助手席に座って先程から無言のまま外を見つめている茉莉子が気になっていた。後ろに乗っている神父も唯一も黙ったままだ。

黎明は窓を少し開けると煙草を取り出した

「一本頂戴」

黎明は茉莉子に煙草を差し出すと火をつけてやり、自分も吸い始めた

「おい。もしあれだったら今から新横浜の駅まで送っていくぞ…新幹線で何処か遠くまで行けば奴等も直ぐには追いつけないだろうから、神戸のお母さんの処にでも身を寄せたら?」

茉莉子はゆっくり煙草を燻らしているが何も答えようとはしない

「さっきので判っただろ?ラドウはもっと手強いぞ…俺だって何処までやれるか判らない…死ぬかもしれない…みんなこの戦いに賭けているんだ。それは奴等も同じだろう」

茉莉子は煙草を消すと深い溜め息をついてから

「何?さっきからウジウジうるさいわね。今の内に休息しておかないと戦えないでしょ。私は決めたの!どうせ今回逃げおおせてもその女神像とやらは、また私達を捜そうとするでしょう。一生逃げ回るなんて嫌だわ。ほら前。曲がるみたいよ。それにさっきだって結構私達いけてたわよね!唯君」

唯一の同意がないので

「ねえ、神父様…(やはり返事なく)さっきのは偶々よ…知ってる顔だったから…」

黎明は車を左折させると

「偶々ね…それが命取りになるんだ!」

茉莉子は会話を逸らすために

「資料を読んだわ。私達がティラの遺跡に行ってしまったから女神が目覚めたんでしょう。責任取らなくちゃ。それに結花ちゃんは関係ないんでしょう。あの場に行ったのは百合子姉さんとお母さんなんだから…姉ちゃんをヴラドが守っているとしても、お母さんに手が延びる可能性だってない訳じゃない。私は二人を守る義務があるわ。それに、私はヴァンパイアを倒す為に生まれてきたのよ…その能力もちゃんと備わっている。これが私の運命だわ。レイ。もう何を言っても無駄よ。置いて行くなら行けばいい…私は一人でも奴等の処に乗り込む。それにほっといても向こうが迎えに来てくれるだろうし…どっちにしても命が係ってんのよ!判った?もうこの話はお終い。着いたみたいよ」

亘が運転する車が倉庫街の中で停まった。

亘が車を降りると倉庫の内一つのシャッターが待っていたといわんが如く上がった。全員が車から降り、中へと入って行くとキャンピングカーが一台とバイクと車が数台と男達が数人待っていた。亘と礼二と黎明はその中のリーダーらしき人物と話し始めジョージは車に積んできた物をキャンピングカーに積み替え始めた。その作業に唯一と神父も合流して動き始めた。黎明は一台の車のトランクの中から武器を取り出すと男から説明を受け始めた。茉莉子は入口にあった水道の蛇口の方へ行くと汚れた顔や手を洗い、黎明の方へと向かった。

「この子に使い方教えてやって」

黎明は男にそう告げると別の車の方へと歩いて行ってしまった。茉莉子がトランクの中を覗くとそこにはボウガンやエアガンが無数に詰まっていた。男の説明を聞いていると唯一が近付いてきて

「凄いですね」

「うん。こんな事ならサバイバルゲームでもやっとけば良かったわ」

唯一は茉莉子が手にしていた大きめのボウガンを掴むとそれを降ろし、小さいのを持ち上げた

「それは俺が改造したやつだけど、女の子にはそれがいいんじゃないかな…まさか女の子がいると思わなかったから(茉莉子の一睨みで)それ軽いから腕に固定して、このカートリッジを差せば六本迄なら連写も出来るし、この外側の方はナイフの刃になってるからいろいろと役にたつと思うよ…ま、どんな実践をするのか興味ないけどね」

男はそういいながら唯一からそれを取ると自分の腕にそれをつけると倉庫内にある標的の方へ近付くと見本を見せ始めた

「こうして全部打ち終わるとこのボタンを押すと外れるから、この時顔に近づけない様に…飛んで出てくるから怪我するかもしれない。つけてみる?」

茉莉子は肯くとそれをつけて練習を仕始めた。

男は唯一にも武器を持ってきて説明を始めた。礼二達も合流しみんなで武器を調べていると、別の男がやって来て皆に着替えを渡した。

茉莉子はキャンピングカーの中で帷子の上から先程のボウガンの説明をしてくれた男の言うとおり、左手にボウガン、右手には鋲がついた鉄製のプロテクターをつけ、足には隠しつけられるようになっているサバイバルナイフをつけ、その上から蛍光塗料がついた白いジャンプスーツを着ると、カートリッジが沢山付いたベルトを腰に巻き、懐中電灯や照明灯、エアガンとそれようの弾等を次々とポケットやベルトをつけ装備を調えて行く。皆もそれぞれにあった装備を同じように次から次へとしていっている

「忘れないで。このボウガンで倒せるのは三メートル以内だけだから…それ以外は致命傷は低いがこっちのエアガンを使うしかない。矢には純銀を使っているし、弾は言われた通りの成分が入っているから…俺達にできるのは此処までだ。あっと忘れてた。この無線をみんな耳につけて」

そういうと皆に配り終えると、親指を立てて見せてから何処かへと行ってしまった。

同じように準備を終えた黎明が戻って来ると一緒に戻ってきたジョージが車の上に地図を広げると、今の状況を説明仕始めた。

「準備は出来たみたいだね。奴等は教会を襲った同じ時間にここら辺でも動いていたようだ。数十人の犠牲者が出ているみたいで、今警察が血眼になって捜査している。ヴァンパイアに襲われた犠牲者達は皆ちゃんと処理されていたようだ。それが示している事は…判るよね」

「ヴラドですね…」

「神父様…ヴラドが襲ったんだったら、姉ちゃんは?」

「否、彼が襲った訳ではないでしょう。その逆ですね」

「ラドウの手の者が百合子さんをさらった…」

「続けますね。警察の動きからすると東京方面へ向かって犠牲者が出ているようです。ヴラドは死体の処理をしながら新宿へ向かっているが…この分では朝までには辿り着かないだろう…俺達はヴラドがラドウと合流する前に神殿に乗り込む」

「待ってください。明日の夜明けだとまたラドウの幻に惑わされるかもしれないですよ」

「唯一君の言う通りよ。まずはヴラドを捜して仲間にする方がいいんじゃないかな」

「何言ってるんだ。あいつもヴァンパイアだぞ!それも力のある」

「だから仲間にするんじゃない。神父様のノートを読んだけど…そんな悪い奴に思えないし私達だけじゃ無理よ」

「そうですね。黎明。私は茉莉子君の意見に賛成です。それに夜明けまで時間がない。ラドウが眠りにつけば私達には彼の幻惑をどうすることもできなくなる」

「俺も」

「亘まで…でもどうやって仲間にするんだよ」

全員沈黙をしたが、礼二が口を開いた

「候補は二カ所…渋谷か三茶だ」

「どちらも似たような距離だな…」

ジョージの言葉で唯一が

「松濤には…もう戻らないと思います」

「姉ちゃん家。ここからだと一番都合がいいわ。新宿に行くにしても三軒茶屋なら…渋谷より近いし…」

「じゃ、行こう。車の方は俺が運転するよ」

礼二はそう言うと運転席へと乗り込んだ。

「亘。俺達はバイクでツーリングだな」

そういうとジョージは亘とバイクが置いてある方へと歩いていった。

黎明はまだ納得行かないという雰囲気だったが地図を畳むとキャンピングカーへと歩いて行った。全員車に乗り込むとジョージ達のバイクに従って車も出発した。

「そうだ。レイ。あんた私達を薬で眠らしときながらどうして、あの時戻ってきたの?」

茉莉子の問いにそうだと言わんばかりに車に乗っている全員が黎明に視線を注ぐと「忘れ物取りに行ったんだよ」

と顔を赤くしていうと、耳の無線機からジョージ達がクスクスと笑う声が聞こえてきて

「無線傍受してたら横浜に化け物が現れたって」

「そうそう!そしたら血相変えたんだよな」

「どうしよう、どうしようってオロオロしてさあー…」

「やっぱり、置いてくるんじゃなかったーとか叫んでたよな」

「もういいよ。よし、これでみんなの無線が通じてるのがわかったな。先輩っ道間違えないでくださいよ。俺は少し仮眠を取るから…」

黎明は顔を真っ赤にしながら眠る体勢に入った。茉莉子達はみんな笑い出していた。これが最後の笑いかも知れないと思いながら 

 その頃、ヴラドも百合子が運転する車で横浜へやってきていた。

彼女のために港の直ぐ側にあるホテルのスウィートを借り、ホテル内にある日本料理店で日本での最後の食事に付き合っていた。

百合子が一人食事を楽しんでいる姿をヴラドは穏やかな表情で見つめていたが、最後のデザート近くになると顔が険しくなっていた

「どうしたの?ヴラド」

「否、血の匂いがすると思って…」

「私の食事を見ていたらお腹が空いてきたんじゃないの?部屋に戻れば血清があるわよ。出ましょうか?でも…何だか外が騒がしいみたいね」

百合子は硝子越しに外を見つめるとパトカーや救急車が何台も走り去って行く

「すまない…誰か新参者が迷い込んだようだ。ラドウの手下かもしれない…。君は部屋へ戻って乗船時間になったら先に船に乗っていてくれ…私も後で行く」

百合子は黙って肯くと席を立ちロビーへ出るとしたためておいた母への手紙をフロントへ預けると部屋へと戻って行った。

ヴラドは血の匂いを頼りに近辺を探ると少なくとも五人の新参者の存在を確認した。

その新参者達はものすごい食欲で人間達を襲っている。

何の教えも受けずにヴァンパイアにされた者達は食事のマナーやルールを判っていない。このままではこの街は一週間もしないうちにゾンビの街と化してしまうだろう。直ぐに火葬されればよいが通夜がある。自分達にとっては都合の良い風習ではあるが、此の国は一年もしない内にヴァンパイアの国となってしまう。

昔は骨のある優秀なハンター達が居たが此の国にいた最後のハンターはラドウが倒してしまっていた。ヴラドはあの時に部屋の片隅で震えていたサバタリアンの子供の事を思った。ラドウはあの子の存在に気付いて居なかったがヴラドは何時の日か自分達を倒しに来てくれるだろうと信じていたのだった。ラドウのもとに居た日向黎明が唯一と手を組みこの事態に対処してくれることを願っていた。

ヴラドは新参者を追いつめて行くと自分がどんどん百合子がいるホテルから離れていっている事にようやく気付き「罠か」と呟くと踵を返して百合子が居るはずの部屋へと急いだ。

ドアは開け放たれ、部屋の中は嵐が去った後のようになっていたが、テーブルの上にはそれとは関係がないかのように真っ赤な封筒が整然と置かれていた。

ヴラドはそれに手を翳すと

『親愛なる兄者よ まさか兄上が私を裏切るような事が起ころうとは残念に思っている。しかし私には寛大にも貴方を許す心が残っている。我らの女神達が貴方をお待ちしております。神殿へいらして頂きたい。貴方の弟。ラドウ・三世・美男公]』

ヴラドが手を離すと手紙は赤い蝶に変わり飛び上がるとヒラヒラと外へと舞って行った。ラドウの高笑いが直ぐ側で聞こえるようであった。

 ヴラドはホテルから出るとまだ捕食を続けている新参者の気配を探るとそいつのもとへ文字通り飛んで行き人形でも扱うように頭を掴むと血を吸い取り手早く首と腰の骨を折った。そのダラリとした死骸の顔を見ると黎明と共に動いていた人間だと気付き唯一の事が心配になった。まさか唯一まで仲間にされたか?否、あの子に限ってむざむざとラドゥーに自分の血を与えたりはしない…と言うことは闘って死んだか…焦る気持ちで次を捜しに飛び立った。捕食をしているコージの背後に立つ

「お前は唯一を知っているか?」

首筋から相手の思考へと進入する。

「お前が唯一を…」

疑念と共に体を放すと、恐怖に脅える新参者は自分の獲物を放し腰を向かしている。中途半端に襲われた獲物は恐怖の余り支離滅裂な叫び声を挙げ始めたヴラドは空かさず哀れな餌食にトドメを刺すとコージと共に宙へ飛び上がった

「さあ言え。お前は唯一に何をした?あいつの血を啜ったか?あいつはそれをどうやって応じた?泣いていたか?笑っていたか?最期な何と言ったか?」

凄まじい勢いで空中へと昇っていくコージは足をばたつかせながら必死で命乞いを繰り返す…既に死者となっているにも関わらず…。

ヴラドは手近な処へ降りるとコージを放し、両手で顔を埋めた。

コージは恐れながらも

「ヴラド様ですね…。私と共に神殿にいらして下さい…ラドウ様がお待ちしております」

ヴラドが顔を上げると、コージは地べたにひれ伏して震えている。ヴラドは声を出さずに直接コージに唯一の事を訪ねた

「違います!俺は…私は唯一に手は出してません……あれは…私の願望です…最後に見かけたのは黎さんと一緒でした…私は違います。本当です」

必死に答えるコージを見つめながらもヴラドは立ち上がると

「では確かめさせて貰う」

そう言って再びコージの首筋から血を吸い始めた。

ヴラドに見えた光景は弟が昔と同じような美しさで、百合子と同じ美しさを持った女を抱えて地下へと降りていく姿とそれを不思議そうに眺めている愛しい我が子の姿…その後、日向の息子と変化した者をつれて出て行く姿だった。死ぬ寸前で離すと

「この後はどうした?」

コージは惨めな程泣きじゃくりながらも延々と自分がどれ程唯一を愛しているかを繰り返し始めた。ヴラドにもそれが邪な愛にしろそれが真実だと判ったが喋らすままにして置いた

「……私は貴方様の僕になります…唯一と共にこの夜の世界に居れるなら…誰の下でも構いません…もともと…こうなるつもりはなかった…ただ…唯一と一緒にいたかっただけなんです…私は裏切ったりはしま…」

其処までいった時にヴラドは我が息子を本気で愛してくれた男に対して精一杯の礼を尽くして残りの血を吸い始めた。できるだけゆっくりと…そして、唯一が赤ん坊の頃からの成長ぶりを、そして自分しかしらない唯一の本当の姿を映像と共に相手に与えると痛みを感じない位鮮やかに首を折り、腰骨を折った。コージは安らかな顔をしている。

ヴラドは死骸を持ち上げると永遠の夢の中にいるコージを海の中へと沈めた…。

そして、自分の最期の時の事を想像した。その時に百合子と唯一が側に居てくれればいいが…そして、二人で人間の生を全うして欲しいと…ヴラドは感傷から立ち直ると直ぐさま次の捕食者へと向かった。

今度は躊躇なく相手の心臓を鷲掴みするとそれを口に頬張った。ヴラドは体内に力がわき上がるのを実感すると近くに転がっている死体に近付き首と腰の骨を折り、神殿を目指し始めた。途中でまだ人間に発見されていない死体を見つけると同じように処理し吸血鬼に変化しても動けないように処置して行った。あとは夜明けの太陽が全てを片付けてくれる。

 工藤達は横浜港につくと百合子を捕らえるべく罠を張り巡らしていた。

コージは公園を暫く歩き回るとベンチに座っているカップルに目をつけると男が離れる機会を狙った。

男が飲み物を買うために立ち上がると、コージは音もなくその男に近付き公衆トイレへと誘い込んだ。

早速、生まれ変わった自分の力を試してみたかったのだった。

男の首に思い切り噛み付くと華奢で繊細な唯一の姿を思い描いた。

二人で永遠の夜を彷徨うのもいいかも知れない…

しかし男が思った以上に抵抗してきたので思わず首の骨を力任せに折ると息絶えてしまったので血が吸えない事と自分と唯一の想像をぶち壊されたことに腹を立てその屍を壁に投げつけると、自分の姿が映っていない鏡の前に立ち、さも見えているかのようにポーズを取ってから水道で手と顔を洗うと身だしなみを整えてからこの力さえあれば唯一を自分のもので出来るだろうとほくそ笑むと恋人を待っている女のもとへと向かった。

拓也と潤はヴラドに自分たちの存在を気付かせる為にわざと派手に獲物を狩り始めていた。