【作品集】蒼色で桃色の水 -8ページ目

【作品集】蒼色で桃色の水

季節にあった短編集をアップしていきます。

長編小説「黄昏の娘たち」も…

「楽しそうじゃん」

「レイもやってみれば、気持ちいいよ。競争しようよ。どっちが高く迄漕げるか」

二人は楽しげに声を挙げながらブランコを漕ぎ出した。

互いに無理している事を隠しながら、青空に向かって漕ぎ始める。

茉莉子は突然、ブランコから飛び降りると

「昔さぁお姉ちゃんと二人でよくこうして遊んだんだ。お母さん仕事でいなかったし…あの人はこんな綺麗な青空をみれないんだよね…」

茉莉子は黎明がおいた缶コーヒーを手にするとまたブランコに戻った。

「お姉ちゃんさぁ、きっと本気であの人の事が好きなんじゃないかなあ…唯君だってあんなに一生懸命あの人を庇って…レイだってあの時本気を出せばあの人を倒せたんじゃない?」

「あのな…あの人あの人って!あいつは人間じゃないし…あの時は唯がお前に銃を向けてたじゃないか」

「違う。あの人は自分からずっと隙を与えていた…んだと思う」

黎明は空を眺めながら

「吸血鬼は吸血鬼なんだってば」

「私、お姉ちゃんがヴラドを本気で好きなら…一緒に行かせてあげたいと思う」

「お前。あんだけ姉さん達を助けるって言いながら…今度は自分から一番好きな姉さんを吸血鬼に差し出すのか」

「……そうだね。そうだよね。でも平々凡々と生きていくより生涯一度の恋に寄って身を滅ぼすのも女にとっては幸せだったりするんだよね。滅多にないことだし…私だって命賭けてるもの…まっそれはおいといて…レイのご両親だってあの人と協力し合ってたそうじゃない…それに教会で始めて戦ってみて、正直怖かった…本当に死ぬかと思った…レイの事凄く憎らしかったのに…自分が死ぬと思った瞬間、レイのことしか頭に浮かばなかった…きっと姉ちゃんもそうだと思うんだ…あの人がどうやって吸血鬼になって、どうやってこの長い年月を生きてきたのか私達には判らないわけだし…あの時唯君も言ってたじゃない、私達二人に近付くなって…レイもサバタリアンなんでしょう。いざとなれば二人で倒せるよ。だから…夕方迄私達も休んで、その後もう一度みんなで話し合いましょうよ」

茉莉子は立ち上がると空き缶を手にしながらキャンピングカーの方へと歩き出した

「俺だって、あの時お前の事しか頭になかったよ」

黎明はそう呟くと茉莉子の後を追って車の中へと入って行った。

 ヴラドは太陽が昇りゆく音を耳にすると追いつめられた気持ちで神殿へ行くのを諦め、百合子の家へと向かった。あそこなら半日くらい身を隠す事は出来る。ラドウに捕まってしまった百合子の事は迫り来るワルプルギスの夜までは安全だという確信があった。ただみすみす彼女を渡してしまったことが不甲斐なく想い、この戦いに勝てるのかと一抹の不安がよぎる。ヴラドは百合子の部屋へ入るとカーテンを全て閉じ、百合子と二人で聞いた曲を流した。クローゼットを開けるとそこはまだ百合子が作ってくれた寝床がそのままあり、体を入れると百合子の香りにつつまれ暫しの眠りへと誘い込まれる。

もう、自分は一歩も動けない程体力を消耗していた。そのせいか周りの異変に気付く事が出来なかった。


 黎明達は百合子のマンションへ到着するとまず周りを調べ始めた。ラドウの手下はいないようだった。茉莉子玄関の扉を開け中へ入ろうとすると昨日かけたチェーンでドアが開かない、亘が工具を出している隙に唯一は廊下を走り出すとベランダの方へと廻りだした。扉が開いたときには部屋に入っていた。皆も警戒しながら部屋に入ると

「唯、早まるなよ。お前一人じゃ奴を倒せない」

唯一は黎明の言葉を無視してクローゼットの前で立ち止まると銃を取り出し茉莉子の方へと向けた

「お前、そんな物何処で…」

「黎さん。それ以上近付かないで下さい。僕は本気ですよ。ここで茉莉子さんが死ねばラドウは目的を果たせない…そうすればヴラドは戦わなくてもすむ」

茉莉子は唯一に銃を向けられたまま、リビングのソファーに平然と座った。

「私はヴラドと戦う気はないわよ。ただ、姉ちゃん達を助けたいだけ…唯一君。もうレイに全部話したら」

「そうだな…今は何を優先すべきかが大切だ。第一、みんな生きて戻れるとは限らないみたいだし…」

「マコ、先輩、唯一!お前達何か隠してるのか?唯一…もしかして神殿からヴラドを逃がしたのは…お前か…ずっと俺を騙していたのか」

「そうだよ。僕が逃がしたんだ…あんなに弱っていたら自力じゃ逃げられないよ」

「どうして…」

「僕はあなた達と同じようにラドウに両親を殺された。でも、違うのは神父様にではなくヴラドに育てられたんだ。彼は僕を息子の様に愛してくれた。それが、二年前に父さんは僕の前から姿を消した…ずっと捜してたんだ。彼は人を殺したりしない…だから…彼を殺さないで」

「もういい…いいんだよ。我が息子よ」

低い地底から響くような声と共にクローゼットの扉が静かに開いた。

「ヴラド?」

茉莉子は乾涸らびつつある変わり果てたヴラドの姿を見つめた。

「また逢いましたね。」

「ヴラド…あなたなの?」

茉莉子がヴラドの方へ近付こうとするとヴラドの表情に苦悶の色が浮かぶと、唯一は素早く空いている方の手を口へもっていくと歯で咬みきりヴラドの口へとやった

「お願い…二人は近寄らないで…今は、あなた達の存在…だけで…」

ヴラドは唯一の血で見る見る内に元の美しい姿へと戻って行った。ヴラドは力が戻ると慌てて唯一の体を抱き留めると自分の指を爪で少し傷つけると唯一の手首に傷口をサッと撫でると傷口が一瞬の内に塞がり唯一がうっすらと目を開けた

「父さん…良かった」

そう呟くとまた意識を失ってしまった

「唯一君っ」

「大丈夫。貧血で眠っているだけです」

ヴラドは唯一を抱え上げると百合子のベッドの方へと連れて行きそこへ横たわせた。

「君達の好きなようにして頂いて構わないですよ。ただ一つ願いを聞いてもらえれば…百合子を助けてくれ…そして、二人を助けてくれ」

ヴラドは薄く差し込んで来る光でまだ辛そうにしながらも六人の方をじっと見つめている。茉莉子はヴラドがクローゼットへ入れるように黎明の手を取り少しその場から離れた。ヴラドも感謝の意を少し表すと中へと入っていったが扉は開いたままだった「お姉ちゃんをどうするつもりだったの?貴方の仲間にするつもり?」

ジョージと亘はソファーへと移動をし、神父がクローゼットの前へと行った

「お久しぶりだね。君はあの頃と変わらないね…私はこんなにも年をとってしまったというのに…今は休みなさい。まだ貴方には力を借りなければならない」

そういうとクローゼットの扉を閉めてしまい、ジョージと亘が立ち上がると大きなテーブルを二人で持ち上げそれをクローゼットの前に立てかけて完全に陽が入らないようにした。暫しの沈黙の中、台所でココアを入れていた礼二がリビングに入って来て皆にそれを配った。

「そんな悪い奴じゃなさそうじゃん」

「先輩は何も判っていないんだ。所詮、吸血鬼は吸血鬼でしかないんだ!さっきだって見ただろう、唯一の血を飲むのを…」

「ここは呉越同舟と行こうじゃないか黎明」

皆、礼二が入れてくれたココアを黙って飲みだしそれ以上誰も会話をしなかった。

いつしか皆眠り始め、黎明と茉莉子は二人で近くの公園のブランコに座っていた

「朝の公園って気持ちいいね。やっぱりみんな凄く疲れてたんだね…」

「お前も疲れてるんじゃない?」

「私は大丈夫よ。さっき車の中で少し眠ったし…その前も誰かさんに眠らされてたし…レイの方が疲れてるんじゃない?ぜんぜん寝てないでしょう」

「実は俺もさっき車の中で居眠りしてた。珈琲でも買って来ようか?」

「うん。あの角曲がったら自販機あるよ。ホットにしてね。カフェオレがいいな」

茉莉子は歩き去っていく黎明を見つめながらブランコを漕ぎ始めた。

 百合子は一瞬の出来事だったので自分がどうされたのかは判っていなかったが若い男にに車で新宿まで連れて来られたのだった。

百合子は結花子が最初に入れられた同じ部屋に入れられると同じように服を脱がされ寝かされていた。ただ違ったのは目覚めたとき、そこにラドウがいた事だった。

「…マリアンナ………我が愚かな兄は優しくしてくれましたかな?愛は多くの罪をおおってくれますからね……アイグレ様」

「私はそんな名前ではないわ。彼はどうしてるの?」

「もし兄が未だに妙なヒューマニズムに囚われているのならばそろそろ貴方様を助けに来られるのでは…きっと明日になるでしょう。悪くすればあの臆病者の事だから一人で出港したかもしれない」

百合子は自分が裸であることに気付くとシーツを体に巻き付けた

「貴方の思い通りにはならないわ」

「それはどうかな?後はヘスペラレトゥサがここへ辿り着いてくれればいい。私が迎えに行ければよいのですが、流石の私でも体を二つには出来ないですからね。私の好敵手はあの愚かな兄しかいない。人間共に何が出来るというのか…我らは君達三姉妹と共に新たな時代を築くのです。さぁ、早くこのドレスに着替え賜え」

ラドウはドレスを手渡すと、着替えが見えないようにに後ろを向いた

「私達は三姉妹じゃないわ」

百合子は素早くドレスを着ながら話すと

「あら、百合子姉さん。そんな顔をしていては男にもてなくってよ」

いつの間にか結花子が部屋に入ってきていた。ラドウの腰に手を回すと艶めかしく腰を動かしながら

「姉さん。私は紛れもなく貴方の妹よ。調べたんでしょう…父さんに捨てられた事をまだ根に持ってるのかしら」

百合子は結花子の目を真っ直ぐ見つめると、無事だった事に安心を憶えながら

「やっぱりあんたって馬鹿な子。あんたは私の妹じゃない。血も繋がっていない」

「何言ってるのよ。あんた達と私の何処が違うっていうのよ。学歴がないのは一緒じゃない…いつも二人して馬鹿にして」

「何言ってるの?父さんは貴方のお母さんと浮気をしていた。貴方のお母さんは父以外にも恋人がいた…ただそれだけの事よ。ラドゥー。貴方の女神達が私達に目を付けたのはギリシャででしょう。母と私達姉妹を自分達三姉妹と重ねた。それなら結花子は関係ない。その子を放してあげて」

「何言ってるのよ。私はエリュティアの力を得て茉莉子と黎明の居場所を…ねぇラドゥー。私はエリュティアになれるわ」

「ラドウ。その女はね、姉妹だと言ってるわりには平気で妹を売った女よ。一度人を裏切ったら何度でも繰り返す。自分の都合のいい風に過ごしたいだけなのよ。それが人間であろうと悪魔の手先だろうとね…何百年も同じように生きている貴方には判るでしょう?」

「何言ってるのよ」

「ふっ…似たもの同士ね。じゃ、貴方は誰に此処へ連れて来てもらったの?まさか自分から進んで来たんじゃないでしょうね。どうせ借金の肩代わりかなんかで連れて来られたんでしょう」

ラドウは結花子から離れると近くのチェストの上に腰を下ろして足を組みながら二人の口論を面白がって聞いている。百合子は頭をフル回転して計算していた

「何も言えないって事はやっぱり図星なのね。どうせホストにでもホイホイとくっついてきたんでしょうに」

「ふん。じゃ言うわ。そうよ、ホストに連れて来られたの。今、茉莉子が一緒にいる男よ。あんたの大事な妹だって私と一緒じゃない。いつも脳天気な我が儘娘は、姉二人を助けに来ないで今頃、ホストといちゃついているのよ」

「やっぱり…すぐ男に騙されるんだから、何故だか判る?中身がないからよ。今はまだ若いから周りにチヤホヤされて有頂天になってるんでしょうけれど、一人でもいる?あんたの中身まで知ってて友達で居続けてくれる子が…茉莉子ぐらいじゃないの?そうあの子は確かに脳天気で単純だけど…貴方と違って純粋だわ」

「何言ってんのよ!私と茉莉子とどう違うっていうのよ…私はあの子と違って友達位いるわよ。青森の頃の友達とは今だって…」

「今だって何?年に一度や二度会う位なら誰だって我慢できるわよ。どうせ見栄張ってお金でつってるんじゃないの?」

結花子はぶるぶると震え出すと百合子に飛びかかってきた。百合子は何の抵抗もしようとはぜずに

「あら、図星だったみたいね。そんなに憎いなら殺してみなさいよ」

結花子の手が百合子の首に掛かると、ラドウが結花子を抱き止めた

「流石、兄さんが惚れただけのことはある。自分を犠牲にするつもりですか…でも、君には誰一人、指一本触れさせはしない。儀式までは生きていてもらわなくてはいけないのでね。面白い舞台だったよ」

ラドウは結花子を抱いたまま部屋から出て行くと扉の鍵が掛けられた。残された百合子はさっきの自分の発言で結花子が殺されるかヴァンパイアの仲間にされるかもしれないと考えると涙で咽せかえり始めた。

「ヴラド…どうか船に乗っていて…此処に来れば貴方まで殺されてしまう…」

百合子の掌には結花子から握らされた薬が残されていた。