【作品集】蒼色で桃色の水 -6ページ目

【作品集】蒼色で桃色の水

季節にあった短編集をアップしていきます。

長編小説「黄昏の娘たち」も…

 神殿内に入った黎明達はジョージが撃ちはなった照明弾の灯りで内部をじっと見つめた。

亘は無線機に向かって小声で

「神父様。聞こえますか?そこから出て左へ十メートル行った処に二人の女性がいます」

ラドウはヴラドを玉座から突き飛ばすとさっと自分の血で腹部の傷を塞いだ。

ラドウは神色自若を崩さずにまだまだ余裕すら感じられる。

中央の女神像はまだ宙を見つめたままその場に立っていた。

黎明、ジョージ、亘の三人が前へ進み出てくると、どこからともなく六人の完全に変化したヴァンパイアが姿を現した。

「やっぱり、そうは簡単に行かないか…」

黎明はそう呟くと、二人と目を合わせ肯いて見せるとそいつ等に戦いを挑み始めた。

唯一が百合子達の元へ着くとほぼ同時に神父も側へとやってきてソロモンの魔法陣を書き始めその中に皆入るように言うと呪文を呟き始めた。

唯一はまだ入口で立ちつくしながら女神像を見つめている茉莉子の方をじっと見つめた。

「茉莉子さんっ早くこっちへ」

茉莉子は唯一の言葉など耳に入って来ない様子でまだ立ちつくしている。

女神像の右後方から入ってきた礼二は黎明達に合流すると一緒に戦い始めた。

唯一は百合子達にじっとしているように伝えると茉莉子の方へと小走りで寄っていくと彼女の腕を取り

「何をしてるんですか?」と

声を掛けたがまた反応がないので無理矢理連れていこうとすると、茉莉子が捕まれていた右腕を振り払うと唯一は魔法陣の側まで飛ばされてしまった。

それが戦いながらも視界にはいってきた黎明達は信じられないという表情で茉莉子の方を見つめたが敵は容赦なく攻撃してくるので相手にしながらも無線機を通して茉莉子に呼びかけるがやはり無表情のまま反応はしない。

黎明はその場をみんなに任せて茉莉子の側へと駆けつけた。

足下にはレハエルも構えている。

そこでラドウの高笑いが神殿内に響き渡った。

ヴラドは茉莉子の姿を見ると

「ラドゥー!あれを見よ。女だ」

ヴラドは茉莉子を指さしながら叫ぶ。

ラドウはそれをうち消すような大きな声で

「黎明。こりもせず又来たか」

ヴラドはゆっくりと茉莉子に向かって歩きながら

「一人の女が身に太陽を纏い、月を足の下にし、頭には十二の星の冠をかぶっていた。また、もう一つの印が天に現れた。見よ、火のように赤い大きな竜である。さて、天の戦いが起こった。ミカエルとその使い達が竜に戦いを挑んだのである…その続きはお前にも判るだろう…お前も知っての通り私にはもうドラゴンの力は残っていない…なら別のドラクレアしか竜はいない、貴様だ!」

ラドウは大量の血を流しながらもヴラドを押しのけ飛び上がると女神達の前に立ち、茉莉子に対して貴族的に一礼をすると、自分の下部達に何やら合図をすると驚異的な強さで黎明達はヴァンパイア達に押さえつけられ地べたに触れ伏せられた。ヴラドはフラフラとしながらラドウの方へと近付いていく。神父は書き終わった魔法陣の中に唯一を連れ込むと百合子達に絶対にこの輪からでないように伝えラドウの様子を伺っている。

「ふん。それがどうした?黙示録が着々と進んでいるというだけのことではないか?と言うことは神もそれを望んでいるということだ!勘違いして貰っては困るぞツエペシュ。私の最大の目的はバイブルの完成だ!私が神にならなくとも別に構わぬ。ミルチャがなればいいだけだ。黎明でかしたぞ。私はお前に賭けていたのだ。我が敵になるか味方になるかをな…私はやはり神に近い存在だったのだ。さあ、見るがいい我らの女神が復活するを」

ラドウは胸元から懐中時計を取り出すとじっと見つめた

「日向の弟。久しぶりだな、今日は何の日だ。何曜日だ?そしてあと数時間もすれば澪時になる…お前なら判るであろう、最強の時が迫ろうとしている。さあ、何をしている二人の娘を我が元へ連れて来たまえ」

黎明達は抗いながら神父を見つめていた。

神父は百合子と結花子の手を握りしめるとラドウを睨み付けている

「何をしている。もしや教会を襲わせた事を怒っているとでもいうのか?お前が望むのであればサンピエトロ大聖堂をやろうではないか」

ラドウは面白がりながら黎明の方を見つめると悪戯っ子のような笑みを浮かべると

「何か符に落ちないといった風だな。昨日教えたばかりなのに…私とあの偽神父は古くからの友人でな、同志と言った方がいいかな…あそこで死にそうになっている我が兄と私。優秀なヴァンパイアハンターの兄と愚かな弟…私はずっと兄上を憎んでいた。何をやっても私の上を行く、憎きオスマン・トルコの手を借りて公位に就くも直ぐに邪魔される。それも二度成らず三度だ…だからこの力を手に入れた時に私が兄を救ってやった…生前はあんなに勇敢で素晴らしかった兄も様々な時代の変化にはなかなか馴染めず今では私が面倒をずっと見なければならなくなった。兄弟の関係が逆転したのさ…私はヴラドを憎むと同時に憧れ尊敬もしていた…だからこの状況にあっても兄を敬う気持ちは忘れてはいない。この国に兄を連れて来たのも私だ醇風美俗の民が揃う一番暮らすのに楽そうな国だったのでな…そこで私の邪魔をしたのが黎明…お前の祖父と父だ。彼奴らは親子で私の邪魔をし続けた。お前の祖父は私達と会った時は既に年を取りすぎていた。私が手を下さずとも勝手に死んでいってくれたよ」

「やめろ!!」

「何を慌てているのだ?お前はマリアを愛していたのだったな…二十年ぶりに合わせてやろうか?」

「何を…ラドウ、叔父さん…」

黎明は藻掻きながら叫ぶが、ラドウは意に介さず

「マリア出ておいで」

ラドウの言葉でもう一つの隠し部屋のドアが開くとそこからは茉莉子にそっくりな女性が姿を現した。

百合子と結花子はその女ヴァンパイアと入口で立ったままの茉莉子の姿を見比べて驚いている。マリアと呼ばれる女は静かに歩いて来るとラドウの前に跪いた。黎明は目の前でラドウに跪く女を見て

「母さん!どうして…」

神父はその姿を見てすくっと立ち上がった

「俺が父さんと母さんの死体を処理したんじゃなかったのかよ…」

黎明は叔父である神父を見てからヴラドの方を見つめた。

ヴラドは小さく首を横に振るだけだった

「この男がどうしてもって望むから、我らの仲間にしてやったのだ。あの日此奴は兄には内緒でマリアを呼びだし、まだ幼かったお前が俺の元に浚われたと嘘を言いこの女をここへ連れてきたのだ。母の愛は強いよの…単身で俺に向かって来たが所詮は人間…叶うわけもない。そして、この男の手筈で私はマリアと共にお前の父を討ちに行ったのだ。あの時のお前の父の顔は傑作だったよ。信じていた弟が裏切り、愛していた妻が自分を殺そうとするのだからな…あいつは私が言うのも何だが優秀なハンターだった。それは同時に優秀なヴァンパイアにも慣れると言うことだった兄を見れば判るだろう?彼も昔は優秀はハンターだった。いつも私の手下を殺し狩りを邪魔してくれた。だから串刺公と名付けてやった…呼び名だけで善が悪に変わる…だが、この男は殺すだけでは物足りなかったらしい…今度は何を考えたと思う?」

「やめろ!」

黎明が叫んでいた

「まあ聞きなさい。お前に実の父親を討たせたのさ…まだ幼いお前にな…」

「酷い…」

百合子は神父の手を振り払うと結花子の手を引いた。

神父は結花子の手は離すまいと引っ張り続ける、唯一が間に入りナイフを突きつけ神父を追い払うと、神父はよたよたしながらラドウの元へと近付いていった。

「マジかよ…さっきまで一緒に戦っていたのはなんだったんだよ」

礼二は神父に向けて叫ぶと、神父は穏やかな表情をして

「私も若かったのです。愛が全てだった…ファウストの前にメフィストフェレスが現れたように私の前にも悪魔が現れた…」

マリアの元へと近付いていく

「血はまったく特別な液体だ」

ラドウがメフィストフェレスの言葉を真似て言う

神父はマリアの頬に手を触れた。

マリアは微笑みを浮かべると迷うことなく神父の頸動脈に牙を突き刺した。

「ああマリア…私はこの瞬間だけを二十年間待ち望んでいた…請い焦がれていた…因果応報とはよく言ったものだ、私は愛する者の手に掛かってようやく死ねるというのに、愛する人を二度までも裏切らなければならないのか…」

神父は隠し持っていた十字架を握りしめるとマリアを抱きしめるようにして彼女の背後から心臓を目掛けてそれを突き刺した。神殿内はマリアの絶叫が響き渡り、黎明は泣きながら目を瞑ると「母さん」と叫んでいた。百合子と結花子も抱き合いながら見ていられない風で目を伏せた。唯一は咄嗟の判断でヴァンパイア一人に押さえられている礼二の方にエアガンを向けると立て続けに打ち込んだ。礼二は相手が怯んだ隙に首と腰の骨をもう手慣れた様子でへし折ると唯一の元へ駆け込んだ。マリアの体は塵と化し、神父はマリアを突き刺していた十字架をそのまま自分の心臓に突き刺し息絶えていた。

「寸劇は終わったな」

ラドウのこの言葉に今迄じっとして力を蓄えていたヴラドが動き始めた。

まずジョージを捕まえていたヴァンパイアの後ろに立つと秒殺でそれを倒し力を吸収した、自由になったジョージはヴラドと共に残りと戦いだし亘もそれに参戦した。もう自由になっている黎明はまだ母だった塵と叔父の遺体を睨みつけているままだった。その時茉莉子がやっと動き始めた。ゆっくりと女神像を見つめたまま周りの喧噪とはうって変わって静かな足取りで近付いていく。足下では猫が必死にまとわりついて邪魔しようとしている。それに気付いたヴラドは唯一に向かって

「唯一っ女神像を壊すのだ!」

その声で唯一が円陣から飛び出そうとすると茉莉子がその方へ手を翳すと円陣の中に跳ね返された結花子はそれを見て唯一を抱き支えながら

「今の見たでしょう…この円陣の中迄では力は通じないようよ」唯一は体を起こすと銃を取り出し、女神像へ向けて打ち込んだがラドウにそれを阻まれた

「くそっ」

百合子は礼二に向かって

「私が出て行くわ。その間に貴方はラドウを狙って、そして君は像を壊すのよ…愛すると言うことは一緒にいることだけが全てじゃない…同じ未来を見つめることなのよ」

二人がそれを止める間もなく百合子は円陣から足を踏み出していた。茉莉子は微笑みを浮かべると百合子に向かって手を差しだし、ラドウも満足げに

「初めからそうしていれば良かったのだ」

「ラドウ。貴方は全てを手に入れると言う。でも一番大切なものは永遠に手に入れる事なんて出来ない…人生の重荷や苦痛の全てから解放してくれる一番大切なものをね…それは愛よ」

百合子がそう叫んでいる隙に礼二は唯一のエアガンで立て続けにラドウに向けて撃ち込み、ジョージもそれに加勢し、唯一は慎重に女神像に狙いを定め眉間と心臓に正確に拳銃で二発撃ち込んだ。女神像からは真っ赤な血が流れガラガラと音を立てて崩れ始めた。茉莉子とラドウの顔がそれをみて豹変し二人同時に唯一の元へと向かったが茉莉子は魔法陣に跳ね飛ばされ、ラドウは一瞬の間でヴラドが唯一の間に入った事で自分の手がヴラドの心臓を貫いていることに気付き絶叫を上げた。

「兄様ー、どうして…」

礼二は唯一と結花子を庇いながら円陣内ギリギリまで下がり、亘は黎明に近付くと思いっきり殴りつけた

「黎明っぼーっとしている暇はないぞ!」

その事でやっと正気に戻った黎明は倒れている茉莉子の元へ急いだ。

茉莉子は百合子に支えられながら意識が朦朧としていた。

ヴラドはラドウに

「ありがとう…これでやっと家族の元へ帰れる………百合子…マリアンナ……百合…子」

ヴラドが百合子の方へ手を伸ばすと、百合子も茉莉子を黎明に預けるとヴラドの方へ手と差し出した。ヴラドの最後の言葉は耳には届かなかったが「生きろ」と言った事は判り必死に肯くとその頬に伝わった涙が茉莉子の頬へと落ちた。

ヴラドもまたラドウの腕の中で塵と化して逝った。

ラドウは崩れゆく兄の体を見つめながら子供のように狂って泣き叫び始めると、茉莉子の意識が戻りラドウを見つめるとラドウが唯一目掛けて飛び出した瞬間にラドウの方へと手を翳した。ラドウが強い力で突き飛ばされると茉莉子と百合子は立ち上がり女神像の方へと歩き出した。

「黎明。二人を止めるんだ…すでに像に操られている」

黎明が茉莉子にしがみついたが腕一振りで振り払われてしまう、続いて亘、ジョージと続いたが同じ事だった。

「ははは…もう、誰にも止められやしない…古の神が復活するのだ」

ラドウは壁に保たれながら立ち上がると勝ち誇った声で宣言した。

その場で残っている者達全員に絶望の色が浮かんだときに何かが神殿内を走り始めた。

茉莉子と百合子が手を繋いで残り二体の女神像に跪くと女神像の目が光り始めた。結花子は女神像を見つめると

「光ってる…何とかならないの?唯一君」

唯一もじっと見つめながら

「もっと早く気付いていれば良かったんだ…茉莉子さん、戦っている時ずっと笑っていたんだ」

「どういう事だ?唯一」

「ここに来てから、茉莉子さんどんどん生き生きしていた…まるでヴァンパイアを殺すのを楽しんでいるようだった。もう既にあの像に取り込まれていたんだ」

「何?この揺れ…」

「地震か?」

女神像と茉莉子達を中心に建物が揺れ始めた。

ラドウや黎明達もその場では立っていられない程の揺れに皆混乱しながらも、黎明は茉莉子の側へと躙りよっていた。茉莉子が立ち上がり目の前の女神像へと一歩一歩近付いて行くと女神像は輝きだした。

その時目の前に黒い物体が横切り台座に乗っかるとそのまま反動を利用して茉莉子の体に爪を立ててしがみついた。黎明は自分の目を疑いながらも見つめていると、その物体は今度は茉莉子の体をジャンプ台にして女神像へと飛びかかった。茉莉子が反動で床に倒れると女神像も輝きながらもゆっくりと後ろへ倒れて行き、地面に叩きつけられた瞬間粉々に砕けてしまった。今度は百合子が頭を抱えて絶叫しはじめると、神殿内の揺れは更に酷くなり、残った一体の女神像に崩れた女神像と撃ち抜かれた女神像から何かが移り憑き怒りにも似た感じに真っ赤に輝き始めた。ラドウは叫び続けている百合子へと近付いていくと

「これで、完成した。私が暗黒の未来をお前達にみせてやろう…」

礼二は揺れに耐えながらも結花子と唯一を自分が通ってきた通路の方へと導き始めた。ラドウは百合子を包み込むと残った一体の女神像へと近付いた。

レハエルはラドウと茉莉子の間に立ちはだかると逆毛を立て対峙している。

黎明は茉莉子を抱きかかえると勇敢なる猫とラドウを見つめた。

茉莉子は眼を開けると黎明を振り解き輝き続けている女神像へと両手を広げ、女神像から茉莉子へと青い光が移る瞬間にレハエルはジャンプしてその光に割って入った瞬間青い光が赤に変わり女神像が赤く輝き始めるととてつもないエネルギーが辺りに立ちこめその場にいる全員が床へなぎ倒された。ただレハエルだけが女神像を従え台座の上に立っている。何もかもが静まり返っていた。静寂はラドウの高笑いで消え去ってしまった。

「猫か?猫ね…いやいや失礼致しました。猫殿か」

狂ったように笑い続けている。

ラドウの腹からは今迄吸ってきた何万もの人達の血が流れ続けている。

「魔女よ!お前達の負けだな…猫、猫の姿で何が出来る…私の勝ちだ!猫ね。ああ失礼月の使者だな…でも猫だ」

ラドウは狂ったように猫猫とぶつぶつ繰り返している

「そんなにショックか?自分の兄まで殺して手に入れたのが猫一匹で」

黎明が怪我した足を庇いながら茉莉子に近付きながら言うと、ラドウはまだ生きていたのか?と言わんばかりに黎明を見ると

「おやおや…そんなに怪我をして可哀想に…なんなら手を貸しましょうか?」

「何を言う!お前の方が重傷だよ…その顔見て見ろよ…自慢の顔が皺だらけのミイラさ…あっお前等吸血鬼は鏡が見れないんだっけ…もうそのご自慢の顔を褒め称えてくれる手下共は一人もいない…お前は滅びるしかないんだ…じわじわとな!ラドウ美男公」

ラドウは黎明の言葉で膝をつき自分の皺だらけの手を見つめると信じられないという面もちで見つめている

「この私に老いなどはない!」

通路にいた結花子が礼二を振り解きラドウを後ろから抱きしめると母親に縋り付くように一層強く泣き始める。百合子も立ち上がると結花子の元へ行き彼女の肩へ手を置いた。茉莉子は黎明と共に立ち上がるとレハエルの方をじっと見つめた。二人は何かを眼でやりとりすると茉莉子は哀しそうな瞳をしてから小声で

「黎明逃げて」と呟くと

女神像の下へ行きレハエルを抱きしめた。

その瞬間また神殿内が大きく揺れ始めた。

茉莉子は大きな声で

「死にたくない人は今すぐここから逃げなさい!!早くっ」

ジョージと亘は黎明を抱きかかえると礼二達が待つ通路へと無理矢理連れていこうとした

「放せ!マコを置いてくわけには…」

暴れる黎明を必死に捕まえようとしていると三人の視界の中で百合子が立ち上がったのが見えた側には血が止まって完全に元の姿に戻っているラドウと倒れている結花子。

「何が起きたんだ」

それに答えたのは通路からじっと見ていた唯一だった。

「百合子さんが魔女だったんだ。ラドウに血を与えた…」

そう言った瞬間唯一は百合子のはじき飛ばされ通路の壁に体を打ち付けられてしまった。

礼二は唯一に近寄って無事を確かめると大急ぎで神殿内に入るとジョージと亘と共に結花子を通路へと引きずって行った。百合子はそれをチラッと見たが茉莉子の方へ近付いていくと二人は手を取り合い女神像に祈りを捧げ始めた。

信じられないという面もちで黎明が近付くとバリアか何かにはじき飛ばされ同時になぜか怪我が治っていた。

黎明は自分の体を見つめてから

「戦えってことだな」

そう呟くとラドウに近付いていった。

 ヴラドが神殿へと降りて行くと、神殿内にはラドウが作った無数のヴァンパイア達が犇めきあっている。

ヴラドは中を見渡すとラドウは高いところに設えられている玉座に腰を下ろし見下ろしている。

玉座の周りには二十四脚の椅子が並べられている。

その上には一つずつだが何らかの物が並べられているヴラドは信じられないという面もちで一つ一つの椅子を見て回り始め、ある席で足を止めると古びた髪飾りを手にとった

「流石ですね。それが一番気になりますか?」

「これは…」

「そうです。貴方があの日兵を挙げて城から出ていくときにマリアンナがつけていた物です。他にもありますよ。父ヴラド二世の剣に老ミルチャ公の杖、母マーラのもある。お懐かしいでしょうツェペシュ(串刺公)ああこの呼び名はお嫌いでしたね。私がつけた中ではお気に入りなのですが…良いものをお見せしましょうか」

ラドウが指を弾いてヴラドの見つめている席に指をさすと、マリアンナの姿が現れた。

ヴラドは幻だと判りながらも見つめずにはいられない。

ラドウはヴラドの反応を楽しみながら今度は自分達の従兄弟にあたるシュテファン大公

「今、もっとも身近にいて欲しい人間でしょう…貴方はこの私よりシュテファンの方を愛していた」

そして次、ヤノシュ・フニャディ

「この男は偉大なる父ヴラド・ドラックと長兄ミルチャを殺した男。確か貴方は師と仰いでおられましたね。ほら、あそこの席で父と兄が貴方を睨み付けている…ああ母の涙は見てられない」

ラドウは面白がりながら自分達と同時代の関係の深い人物を次ぎから次へと出現させていくヴラドは中央まで後ずさると玉座を囲むようにして三体の女神像と台座に一つの壺が置かれていた。その壺に手をやると、ラドウは一層目を輝かせると

「二十四人目が現れましたよ…おおマリア。貴方の哀れな二番目の妻ではないですか…あなたを陥れた女が最後に現れるとは」

「ラドゥー。五百年もたった今でもそんなに私が憎いか…」

「ツエペシュ。貴方の手が今触れている壺の中身がお判りか?スナゴウの湖で溺れ死んだ小ヴラドですよ。私の指図で実の母に殺された。哀れな私の甥」

ヴラドは目を真っ赤にさせるとラドウに突進すべく飛び上がると

「まだ早いですよ」という言葉と共に跳ね返された。

ラドウは右手に聖書を持つと

「この状況が何だかわかりませんか?」

ヴラドは周りを見渡した。

中央の玉座その下にはクリスタルのタイルが引いてある。そして四つの生き物…壺から浮かび上がっている息子が聖書の一文を唱えている。七つの松明。死から甦った二十四人の長老…

「ヨハネの黙示録」

答えが気に入ったと肯くと聖書を膝に乗せ両手で三角の形をつくりながら余裕を見せている

「これから七人の使者がやって来る。神を復活させる為にね…何もしらずにやってくる白い馬、黒い馬、青白い馬何に跨ってくるのやら」

ヴラドは意識を集中させてラドウの前に立つとラドウの幻影は姿を消した。

「百合子は何処にいる?」

「大切に預かっていますよ。お会いしますか?私は一向に構いませんよ。でもその前に一つ窺って宜しいですか?私にはどうしてもわからないことがある。何時から我らは同床異夢になってしまったのでしょうね…そうだ!昔、父の前でよくしたように剣でお相手願いましょうか。今回は昔の様には行きませんよ。父上がこの場に居ないことが残念でなりませんが…私も成長しましたからね。さあ、私の愛しい子供達よ、お前達は食事に行っておいで」

ラドウの言葉で波が引くようにヴァンパイア達は姿を消して行った。

「さあ、場所が開いた。この剣をお使い下さい。エリュテュアは怪我しないようにあっちに行っておいで…(ずっと黙って後ろに立っていた結花子が離れると)さあツエペシュかかってきたまえ」

ラドウは余裕をもってヴラドと対峙した。二人はまだ人間だった少年の頃のように剣を交え始めた。ただ違うところは二人が壁を走り宙に浮いたりしながら怪力乱神に戦っていることだけだった。

「ラドウ。お前は本気であんな魔女達の戯れ言を信じているのか?」

二人は剣を討ち鳴らしている

「ええ、勿論ですよ。私達で聖書を完成させるのですよ。世界を造り替えるのです。そして新約でも旧約でもない本物のバイブルを作り上げる。兄さん…貴方は今迄何を見てきたのですか…愚かな人間達の所業を見なかったとでも仰るのですか?私達が手を下さなくとも何れにしても滅びるだろうが、そうすれば同時にこの楽園すらも失くなってしまうでしょう…それをくい止める為だ。何が悪い!」

ヴラドはラドウと戦いながらも百合子の血の匂いを捜していた

「貴方はよもや忘れたのではないでしょうね。あのオスマン・トルコでの恐怖と屈辱、抑圧の日々を…人間達が僕達に何をした。まだ少年だったこの私に…」

ラドウは先程までのにやけ顔は何処かへ行っていた

「あの時代では仕方がなかったのだ。お前にも判っているはずだ。我が一族だって同じ事をし領地を広げて行った。変革の時代には大量の血も必要だったのだ…それでも人間は生きてきた。どんな状況からでも立ち直り、それ以上に進化していっているんだ。私はそれが太陽の光よりも美しいと思う事が出来る。お前にはどう見える」

「どう見えるだって?今ここへ向かって来る奴らと同じさ…自分達のエゴの為に我らを滅ぼしに来る敵だ。彼奴らだって自分達の為なら平気で動物を殺す。我らも同じ事だ」

ヴラドは間合いを詰めながらも黎明達が到着するまで時間を稼ごうとしていた

「魔女達の方はどうだ?彼女達の目的は本当に復活する為だけだと思うか」

ラドウは剣を振り回しながら

「さうさ。彼女達は私達よりも長く、それも暗黒の中で過ごしてきたんだ。今では石化してしまって自由に動くこともできない。そんな彼女達が一番望んでいることは自由さ。そして我々が望んでいることも昼夜関係なく自由に闊歩する事。互いの利害は一致している。そして、あの日誓ったようにミルチャを復活させる」

「お前は奴等に騙されているんだ。奴等は復活したら最後、我々を滅ぼすだろう。復活さえすれば我々に用なんかない!彼女達は我々のように生き血を啜らなくても永遠に行きていけるんだ…我々と血を交わす?きっと近くに寄ることさえ許されないだろう…それに奴等は私達の力を求めてはいない。その証拠に彼女達はヴァンパイアの娘ではなく人間の娘、それもサバタリアンを求めているではないか?我が一族と血の婚礼なんかするつもりはない。第一向こうは三人、私達は二人…一人足りないではないか。ミルチャは五百年も前に死んでいるんだ」

「それには問題なんかないさ。もう一人仲間を増やせばいい…そんなに心配なら、こうすることにしましょう」

ラドウは踵を返すと百合子を連れて来るとヴラドがそれ以上近づけないように剣先を向けた。

「この娘を我らの仲間にする。兄上にはできないでしょうからね。私がする。いつか感謝する日が来るだろう…エリュテュア、兄の剣を取るんだ」

じっと見つめていた結花子はヴラドから剣を受け取ると無表情のまま窮鼠噛猫の意を持ちラドウに近付くとその剣をラドウの腹部に突き刺した。

同時に仕込んであった注射器も差し込んだ。

ラドウはそれらを余裕で避けられたにも関わらず結花子の思うようにさせた。

震えながらラドウに近づいてくる結花子の頬を手でなぞると自分から突き放し、腹を押さえながら玉座へと戻った。

結花子は突き放された衝撃で壁に全身を打ち付けられた。

百合子は床に倒れ込んだ。

ヴラドは百合子を抱き上げると

「どうして…」

「彼女が君を助けた」

「結花子が…」

そういうと百合子は結花子の元へと駆け寄った。

「大丈夫?何で…あんな酷いことを言った私を」

結花子は打ち身に耐えながら

「理由なんてないわよ」

二人はヴラドに従い角の方へ移動すると身を寄せ合いながら二人の兄弟を見守った。

「兄さん。これでやっと対等と言ったところでしょう。人間とは本当に愚かな生き物だ。昨夜迄はあれ程罵詈雑言を吐き合っていたかと思えば身を以て助ける…弱い生き物だ。そうは思わないかい」

ヴラドはラドウのいる玉座まで上がると胸ぐらを掴みながら

「だから、強いのではないのか?我ら兄弟とて昔は同じであったのではないか」

「じゃあ兄さん。助けて下さいよ。兄様、僕に力を貸して…はっはっはっ」

ラドウは自分の幼い頃の声色を使って戯けて見せている

「ラドゥー。私達は長く生き過ぎた。もう終わりにしょうではないか」

その時、神殿内がぱっと明るくなり

「その通りだっ!もうお前達は終わりだ。塗炭の苦しみをあじあわせてやる」

黎明達が神殿の入口に立っていた。

 亘は一通り倒したことを確かめると

「ジョー、俺は下へ行く後は頼んだぞ」

亘はそう叫ぶとバイクのまま扉を通り抜けるとクラクションを鳴らしながら階段を降りていった。

黎明達はそれを聞きつけるとそれぞれ手近にあったドアを開けると中へと逃げ込んだ。亘は神殿へのドアをバイクでぶち壊すとターンをし

「廊下は任せろ!上はもう終わる」

ジョージはバイクを態と転ばし背中に背負っているボウガンを取るとその矢をタンクへと打ち込みガソリンが漏れだした事を確認してからポケットから煙草を取り出し火をつけ一服してからそれを放り投げた。

ボウガンを再び背中に戻しエアガンを掴むとゆっくりと階段を降りて行った。後ろからは何度も破裂音が響き始めた

「上は終わったぜ」そ

ういうと一番手前のドアを開けるとエアガンを打ち始めた。


 唯一は部屋へ飛び込むと反射的に体を動かし側にいたヴァンパイアの首をへし折った。相手の心臓へボウガンを打ち込み苦もなく倒すと隣の部屋へと向かった。唯一はヴラドと暮らした日々を思い出していた。ヴラドは吸血鬼に関してあらゆる事を教えてくれた。唯一がある程度大きくなると船で世界中を連れ周り色々な人間やヴァンパイア達を見せ、それと同時に体に染み込むほど戦い方も教えられた。

いざ戦ってみると恐怖よりも…考えるよりも…まず体が反応する。

唯一はヴラドが自分を息子として育てたのではなく、自分達を倒す者として育てた事を悟っていた。

唯一はヴァンパイアを慣れた手つきで倒して行きながらも

「否、ヴラドは僕の父さんだ…厳しかったけれど僕を愛してくている…」

自分が全ての終わりへと向かっているように感じながらも戦い続けていた。


 茉莉子は部屋へ入った瞬間に敵に出くわしベッドの方へと投げ出された。そのひょうしにエアガンは浴室の方へと滑っていってしまった。茉莉子は一瞬目を瞑り「何も打つ手が無いとき、一つだけ打つ手がある。それは勇気を持つ事よ」茉莉子は目を見開くと素手で戦い始めた

「マコ。大丈夫か」

「何とかね」

茉莉子はヴァンパイアに袖を捕まれるとそのまま相手に肘鉄を食らわせると、袖が破れた事でボウガンがあった事を思い出すと残りの奴等も次々と矢を打ち込んで行った。

浴室の方へ行きエアガンを拾い挙げるとまだ息の根が止まっていなかった一体が足にしがみついてきた

「大丈夫か?」

茉莉子はドアの処から顔を出す黎明の顔を見ながら足で思いっきり頭を踏みつけるとブスッという変な音と共に

「ごらんの通りよ…」

「ボロボロだな」

仕掛けを済ましたジョージが黎明の後ろにやってくると

「準備は整った。下へ降りよう。五分後にはここも火の海だ。マスター聞いてるか?」「おう。こっちも何とか終わったよ」

「じゃあ照明弾の合図で突入だ」