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【作品集】蒼色で桃色の水

季節にあった短編集をアップしていきます。

長編小説「黄昏の娘たち」も…

 ジョージは自分の無線機を取り外し結花子にそれを手渡すと耳に当てさせた

「私…幸せだった…お姉ちゃんも助けることが出来たし…最後にレイとレハエルと一緒にいれるんだもの…ガガ、ガガガーザーーー」

これで無線は切れてしまった。

結花子は涙ながらに肯くと無線をジョージへと返そうと手を伸ばしたときに手元が狂い落としてしまった

「全てが終わったのね…」

礼二とジョージは互いに目を合わせると悲嘆な表情を浮かべ二人で結花子を支えて歩き始めた。

結花子が何かを言いかけるとジョージが首を横に振り歩くように促した。

ジョージは二人が歩いていく姿を見つめながら暗闇で首筋に手を持っていくと無数の牙の痕をさすった。

結花子が手で壁をなぞりながら歩いていると梯子が手に当たった

「あったわ…此処に梯子がある…ここから出られるんじゃない?もうこんな処うんざりだわ」

礼二は梯子によじ登って行くと最後の力でマンホールの蓋を持ち上げるとそこから眩しい程の朝の光が射し込んで来た。

ジョージはそれを見届けると持っていた最後のヴォーガンを自分の心臓に突き刺した

「グッドラック」と言い残して…

二人の中間に立っていた結花子は眩しさに目を背けると大きな声で

「ジョージさん今何か言った?礼二さんそっちはでられそう?ちょっと二人とも返事してよ」そういって慣れてきた目で上をみると礼二の体から火が噴き始めているのに気付いた。礼二は太陽に焼かれていく肉体でマンホールをしっかりと持ち上げ支え続けていた。その表情は穏やかだが何かを成し遂げたという顔をしているように見えたのだった。

 唯一はロザリオを片手で握りしめると剣を両手で持ち最後の力を振り絞りラドウに向かって走り込んだ黎明は亘との昔のやり取りを思い出していた。

黎明の両親がラドウに殺された時、二つ年上で既に自分の両親もラドウに殺されていた亘が泣いている黎明に色んな絵を描いて慰めてくれたのだった

「大丈夫…大きくなったらぼくがあいつを倒してやるから」

「レイ、僕がお兄ちゃんになってあげるから大丈夫だよ」

「レイ、泣かないで…レイ、心配ないさレイ…レイ…レイ」

いつも無口だった亘が黎明にはいつも構ってくれていた。

本当の兄弟だと思っていた…

家族だったのに…

黎明は捨て身でラドウに挑みかかると、ラドウは

「残念ですね」

という言葉と共に黎明の胸へと自分の手を突き刺すと反対の手で黎明の体を退けた。

一歩遅かった唯一は黎明の方を見ると足を止めた茉莉子は何かに引っ張られるように祈りから立ち上がるとラドウの手から滴り落ちる血を見つめながら、黎明に近付くと抱き支え

「聖書にあります。終末の時が来れば塵の中に眠る死者の多くが目を覚まして永遠の生命に至る者と限りない恥辱を受ける者とに別れるだろう…と、今最後の審判が下ります。心してそれを受けなさい」

ラドウは中世の騎士を思わす忠誠心で女神に跪いた。茉莉子も黎明を支えたまま女神像に頭を下げた。黎明は、薄れゆく意識の中で茉莉子の細い手を握りしめると無理に笑顔を作ってポケットに忍ばせておいた指輪の片一方を取り出すと血塗れの手で茉莉子にそれを握らせた。そしてこれで良かったのだと頷いて見せた。二人は黎明の母親が大切にしていたミセレーレの中の一枚《愛すれば心嬉しきに》のように慈愛に満ちた光景だった。女神像がまた違う輝きを放つと百合子も立ち上がりラドウへと場所を譲った。ラドウは肯いて見せると一歩一歩神前へと歩み寄り、間近まで来るともう一度お辞儀をしてから傷ついた体をものともせず両の手を大きく広げ女神を受け入れる準備をした。ラドウの表情は勝利を讃え誇らしげに見える

「さぁ我と共に歩まん…」

女神像は一層光り輝き石膏は光の集合体へと変わり、その光が光の矢となって一斉にラドウの体へと向かって突き刺された。


 茉莉子は黎明を女神像の後ろ迄連れていくと黎明は自分の力で立ち上がり像に触れると

「亘…俺がちゃんと終わらせてやるからな…待ってろ…」

力を込めて女神像を押すがビクともしない

「亘…力を貸してくれ…終わらせるんだ!終わらさないと…」

猫があんなに簡単と倒せた像をなんで自分が倒せないんだと無力さで涙が溢れてくる

「泣かないで男の子でしょ」

「母さん?」

黎明は自分の横にさっき見たヴァンパイアの姿の母ではなく遠い昔の今は写真の中にしか見られない母の姿をみた

そうだ。俺の息子はそんなに弱い子か」

「父さん」

父の姿も見える…すまなそうな顔をした叔父の手も添えられている。

白い歯を輝かせて笑っている亘の力強い腕も、タカシやコージ、潤…この戦いに関わって死んでいった者達の手がどんどん黎明に力を与えてゆく、そして茉莉子の力も…古の女神の力も加わり像はゆっくりと倒れていったラドウが凄まじい気配を感じて像の方へ目を上げると像がゆっくりと頭上に倒れてきている。思わず退くと黎明が茉莉子に支えられて立っているそしてその背には夥しい数の魂がのし掛かっている。全てが見たことのある魂だった。その中にはまだ人間だった頃に自らが手を回して討たせた父や兄の姿もあった。

そしてヴラドの最初の妻マリアンナ。

美しく優しいヴラドの最愛の女性…自分の嫉妬心から出た嘘で谷底へ身を投じた女性。ラドウの初恋の人。

今迄自分が弄び奪ってきた魂達…ミケランジェロの最後の審判を見ているようだった。自分はなんと言うことをしてきたのだろうか…黎明の手に力が加わった瞬間ラドウに最後の審判が下されたのだった。

彼は一番欲していたが一番忌み嫌っていたものを手に入れたのだった。

人の心を…

同時に唯一の剣を 女神像が壊れると茉莉子達の体から魔女は消滅した。

百合子は疲れ切った体でラドウに近付くと唯一に向かって静かに首を横に振った

「殺してはいけない。此奴は見なければいけない。再び人間の眼で自分がしてきたことを…ずーと…永遠に」

唯一の剣はラドウの肩を通し床に突き刺さっていた

「ヴラドが言っていた剣ね。これで此奴はもうここから離れられない…あなたがその剣を抜かない限り」

百合子は唯一の肩を抱くとラドウから離れた処へ連れて行きながら

「貴方はまだ行ってないのよね。お父様は貴方のために幽谷の里を残してくれたのよ…そこで一緒に暮らしましょう…みんなで力を合わせて。あのキチガイなんかはほっとけばいい…」ラドウは百合子の言葉通り宙に向かってずっと手を振ったり謝ったり喚いたり泣いたり赦しを乞うたりを続けている。茉莉子は黎明と寄り添うように座り込むとどこからかレハエルが戻ってきて膝の上にちょこん咽を鳴らしながら座った猫の体をなぜながら宙を見つめている

「全てが終わったのね…」

「ああ」

「私…ずっと夢を見ていたみたい。そこは天国のような処で姉妹三人で楽しく暮らしていた。そこへ知らせが来たの従姉妹達が死んだと…私達には永遠の幸福と命が約束されていたのに…彼女達は死んでしまった…そして暗黒の世界がやってきた…怒りと憎しみと哀しみしかそこにはなかった…」

「ああ」

「でも、私は同時に私でもあった…私はラドウと同じ…神父様とも同じ…姉妹って変なものね…愛してるのか、憎んでいるのか判らない…永遠のライバルなのかもしれない…最初の女神像が壊されたとき…怒りと安堵が同時にやってきた…もうこんな事はしなくて済む…これでお姉ちゃんは助かる…でも、これで姉は死に、また争いは繰り返す事になるって…レハエルが来た時もそう…あの時は昔会った事のある異国の神の姿が見えた…」

「もう…話さなくてもいい」

黎明も宙を見つめたまま

「みんなは無事助かったのかしら」

「ああ亘がいるから大丈夫だろう」

「そうかしら…亘さんは天使になったのよ」

黎明は茉莉子の頭を撫でながら女神像の残骸を見つめていた。

女神像の欠片からは先程の赤い光は消え去り、癒しの光を放っていたが今はそれも消えつつある、単なる石に戻っていた。

二人は女神に守られながら穏やかに時が過ぎるのを待っていた。

神殿内はもう殆ど崩れ落ちている

「レイ…これから何処へ行く?」

「俺はずっとマコの側にいるよ」

「レイ…目を瞑っちゃ駄目、一緒にイタリアへ行くんでしょう…サンマルコ広場で夕日に包まれながらワインを飲んで、私達は結ばれるのよ」

黎明は茉莉子の手を強く握りしめると

「マコ?ああ…一緒に行こう、ドゥオーモの天使が見えるよ…」

「そうよ、あの天使が見えたら何処からでも迷子にならない…一緒に行きましょうね。レハエルも一緒にね…」

といいながらも頭の中ではオイディプス王の娘アンティゴーネの事を自分と重ねあわせていた。

 礼二は唯一を立ち上がらせるとジョージと亘に

「取り敢えず、彼女を外へ連れ出すんだ。結花子も覚醒するかも知れない。少しとはいえ魔女の力が入っているからな」

「礼二さんは?」

ジョージが結花子を抱えながら不安げにいうと

「俺にはまだ大事な仕事が残ってるんだ。死ぬわけにはいかないさ」

そう言うと通路を進み出した。立ち上がった唯一は

「僕はヴラドとの約束があります。亘さん」

そう言うと聖母の絵を取り出すと口づけし

「ごめんなさい。僕、勝手に持ってきてしまって」
亘はいいんだと頷くと唯一の肩を叩き自分がつけていたロザリオを唯一の首にかけると

「行くんだろう。でも絶対生きて戻って来いよ!俺達は仲間なんだからさ…それにもっといい絵を描いてやるから」

そういうと結花子を抱いて歩き出した。

唯一は以前ヴラドから渡されていた剣を握りしめると礼二達に別れを告げて神殿へと入って行った。

ラドウは唯一の持っている剣を見つめると

「唯一、貴様がヴラドの息子か?完全体になった私を殺せるかな。黎明…お前も本気を出して闘わないといくらサバタリアンで優秀なハンターの子でもこ私を倒せまい。二人同時にかかってこい」

ラドウは再び余裕の構えでいる。確かにラドウに言うとおり唯一と二人掛かりでもそう簡単に倒せる相手ではない

「黎明よ。お前は良く戦った。もういいではないか…お前も私と共に闇の子となりこの世界を手に入れようではないか?私とヘスペリデスの娘が結ばれれば闇の楽園が訪れる。そこで我らは王になるのだ…さあ、手を結ぼう。お前達人間が好きな夢や希望が全て手に入れることが出来るんだ。未来は思うがままだ」

「ふん、未来ね…未来っていうのは常に前向きに生きている人間が使う言葉だ。不死者のお前が口にするな!」

その言葉と共にまた戦い始めた。


 通路を行っている礼二達もなかなか進むことが出来ていなかった。

通路内にはまだまだヴァンパイア達が残っていたのだ。

意識のない結花子を庇いながら進むのは大変な作業だった。

それにどう見ても来るときに入ってきた通路の先は塞がっている。

無線を通して入って来る音からしても神殿内に戻る訳にもいかない。

ジョージは昨日訓練したときから演技はしていたが礼二がただ者ではないことは判っていた。

暴走族の総長でもない…金持ちの単なる坊ちゃんでもない…何か別の組織の関係者。誰にも気付かれないように何処かと連絡を取り合っている事にも気付いていた。でも、どこの組織か?

「なんなんだよ。助けに来るなら今だろ…」

いつの間にか考えが声に出ていた。

亘は

「何いってるんだ?あの梯子を登って他の通路にでよう」

ジョージは先頭を歩いている礼二の腕を掴むと

「あんた何者だよ?ただ者じゃないって事は判ってるんだよ。教会でも誰かとメールでやり取りしてただろう…そいつら、いつ助けにきてくれるんだよ」

礼二はジョージの行っていることが判らないって風で

「お前何言ってんだ?」

「もう隠すなよ!何かの組織の一員なんだろ?救援呼んでるんだろう」

「否…」

ジョージが礼二に詰め寄るのを亘は結花子を抱えながら止めに入った

「ジョーっさっきから何ごじゃごじゃ言ってんだよ。今は出口を捜す方が先だろ!組織ってなんだよ」

ジョージはふてくされたように礼二を見ると

「此奴に聞けよ。仲間だと思ってたのに…」

礼二は辛抱強い態度で

「俺は仲間だよ。ただ君が思っているような組織には入っていない残念ながらね。ただずっとある会員には入っていてその会は世界の滅亡について調べている。でも半分は趣味の世界だ。オカルトのね。そして、俺は填りすぎた…ある意味狂気だな。君達の教会の様子が普通じゃないのに気付き自分なりに調べていった結果あの女神像にぶちあたり、いろんな国へ行った。そしてギリシアにも行った…そこでびっくり、黎明の母親に瓜二つの女が居た。これは運命だと感じた…きっと俺がこの滅亡の危機を救わなければいけない。使命だ。若い頃は散々やんちゃをした…それも自分が何者か判らずに身悶えていただけだったんだ。親に財産があるというのは想像以上に複雑なものなんだ…それから俺は二人の人間を監視仕始めた…二人の動きを見張っていれば滅亡の前触れは必ず判る…そして数日前、二人が一緒に目の前に現れた…ただそれだけだ…残念ながらね」

途中で気が付いた結花子が

「あんたストーカー?」

礼二は過去の経験の名残で思わず睨み付けると結花子は亘の背に隠れた

「ある意味そうかもな」

ずっと黙って聞いていた亘が

「じゃあ…ジョーが言ってるメールは誰に送ってたんですか?」

礼二はその問いに照れくさそうに

「自分にだよ」と答えると近くにあった梯子を登り始めた。

亘も後に続きジョージが結花子に登るように促すと、結花子は

「そりゃーそうよね。そんなオカルトおたくに友達はいないわ…」

と呟くと登り始めた。

ジョージも

「確かに…」

と続け、礼二以外は全員笑い出していた。

ジョージが隣の通路に降り立つと結花子が思い出したかのように

「他のみんなは?茉莉ちゃんはみんなどうしたのよ!」

みんなが沈黙すると

「何なのよ!!言いなさいよ」

「亘っ早く進むんだ!」

ジョージは茉莉子の名前を泣き叫ぶ結花子の腕を掴むと無理矢理通路を進み始めた。

「行き止まりよ。どうするのよ、水がだんだん上がってきてる。やっぱり茉莉子達の元に戻るべきよ」

結花子が叫ぶと

「あそこからまた他の通路へ出られるかも知れない」

ジョージの言葉で亘が結花子を抱きかかえて登らせようとすると

「嫌よ。あんた達仲間でしょう。どうして最後まで戦おうとしないのよ」

「もう…戻る道はないんだ。彼奴らなら大丈夫だ!今は俺達だけでも抜け出さなければ…急げっまた揺れが…」

四人は幾つかの通路を渡り進んでいくとヴァンパイアの気配は完全に無くなっていたが水かさは増えるばかりだった。結花子が扉を見つけると四人はずぶ濡れになりながらも其処へ避難した

「この奥なら出口がありそうね。早く地上に出て助けを呼んでこないと。まだみんなを助けられるかもしれない………今の何?」

何かが破裂し轟音が聞こえてくる

「水だっ」

亘が扉に近付く

と「くそっ中からは閉められない…ジョー。後は任せた」

そういうと誰も止める間もなく亘は鉄の扉から出ると扉を閉め外のバルブを廻し扉を固く閉め始めた

「ちょっと何すんのよ」

結花子が扉を何度も叩きつけると礼二が肩を抱き

「早く行くんだ!亘の行為を無駄にするな」

亘は扉の下で座り込むと迫り来る濁音を聞きながら濡れた煙草を取り出すと口に加えた

「やっと禁煙ができるな…唯一。ごめん。やっぱ絵描けないわ。俺の部屋にあるやつ全部お前にやるから…ラドウを倒せよ!みんなの敵を討ってくれ…ヴラドには俺からいっといてやるからお前の息子は立派に闘ったってさ…あとジョー………」

ここで轟音と共に亘の声は聞こえなくなった。ジョージは泣きながら結花子の手を握りしめると暗闇を歩き続けた

「あと何なんだよ…」