私にとって、ピアノ音楽に於いて特別な作曲家と言えるのは、モーツァルト、ベートーヴェン、シューベルトの3人。中でもシューベルトに、とりわけ惹かれるような気がする。もちろん、モーツァルトもベートーヴェンもほぼ同格な存在なのだが。
その一つはオーストリアに住んだこと。そして、もう一つはベーゼンドルファーを毎日弾いていることだと思う。
その2つがなかったら、私はシューベルトに、ここまで引き寄せられなかったかもしれない。
オーストリアは、オーストリアに住んだことがあるものにしかわからない特別な空気感がある。それは、隣国ドイツとは違う。さまざまなオーストリア特有の事柄、ここでは挙げきれないのだが、それを知っていることにより、シューベルトへの理解に繋がる。そして、ベーゼンドルファー。これは、もう、シューベルトを弾く上で絶対に必要な楽器だ。とにかく弱音の世界がとてつもなく幅広く、他のメーカーの楽器で、シューベルトは演奏不可能と思ってしまうほど。それほど、ウィーンの伝統から生まれた楽器ならではの、強みと言えば良いのか?それが存在する。もし、ベーゼンドルファーを使わなかったら、シューベルトのことを、ここまでは感じられなかったに違いない。こんな弱音が出せる楽器を私は他には知らない。だから、スタインウェイを弾いていただけではわからなかった発見が沢山あるのだ。このことは、実はモーツァルトやベートーヴェンにおいても、異なる意味で同様であり、ことに共鳴感においても、やはり、ベーゼンドルファー以外の楽器からは感じられなかった特別なものを感じる。よってベートーヴェンの思い描いていた宇宙を感じることができる。