作曲家の作品に込めたテーマは何だったのだろう?と考えて見た時、殆どの作品は、もしかしたら「死」ではないかと感じるようになった。私も50代半ばを超えて、自分の知っている人たちを沢山見送った。また一人、また一人という具合に。あの人もこの人も、もうこの世にはいない。誰しもに必ずいつか死がやって来る。私でさえ、死について考えざるを得ないのだから、当然、作曲家も死について考えていただろう。だとすれば、意識して書いた作品もあるし、無意識のうちに書いた作品もあるだろうと思う。結局のところ、偉大な作曲家も、偉大な演奏家も死と向き合いざるを得ない。例外として若かりし頃の作品には、その影はないのかも知れないが、多くの作品は、やはりテーマは死であろう。思うに、昔は今よりも寿命が短かったし、死が身近であり、それが自然なこと。現代は日常生活が死と距離があるというか、皆わかっていても、死が身近にはない。それが証拠に、皆が長生きをしたくて、健康に良いものを食べたいとか煙草は吸わないとか、いわゆる健康ブームとも言える状況。医師の書いた書籍は山ほどあり、皆が読みたがる。インターネットの世界も然り。皆が死から逃れたい、敢えて考えたくないと思っている。要するに死を受け入れたくないのだ。でも、偉大な作曲家が活躍していた時代は、そんなことは言ってられない時代だったに違いない。だから、死と隣り合わせの日々を送り、いつも死のことを考えていただろう。そんな境遇の作曲家たちの作品には死が潜んでおり、意識無意識に関わらず、死がテーマ、もしくはどこかに存在していると思う。それに加えて、死を意識するからこそ生を意識した、敢えて、生きる喜びを表現した、相反する作品もあると思う。死を意識することは生を意識するし、生を意識することは死を意識すること。表裏一体である。そういう観点で、作品と対峙することは、同一作品に新しい何かを見出すことになるかも知れない。