ザルツブルクでの5年半、私はモーツァルテウム音楽院で、ドイツ人ピアニストであるアルフォンス・コンタルスキー先生に師事。ほぼ毎週レッスンを受けていた。ふと思う。先生は当時の私のほとんど全てをお見通しだったと。今だからわかる。当時の先生の年齢に近くなって、当時の先生の立場にある意味では似ている。ある意味というのは、60歳近辺の人からしてみれば20代の若者の考えていることなどたかが知れている、いたと思う。何と私は青かったことかと。当時の先生は敢えてそれを口にせず、私の自由にさせてくれたと思う。今だから思う。思うようになった。何と寛容なお人柄だったのだろうか。前衛音楽作品のスペシャリストであり、あのシュトックハウゼンからも作品を献呈されたり、世界初演もしていた偉大でインテリジェンス溢れる方だった。今にして思えば、もっともっと先生から様々なことを吸収すれば良かったと後悔している部分もある。しかし、当時の私はニコラーエワ先生の存在の方が遥かに大きくなってしまっていて、先生には本当に失礼なことをしていたにも関わらず、いつも穏やかにレッスンをして下さった。お詫びの気持ちと感謝の気持ちを込めて。