ベーゼンドルファー、誰もが知るウィーンの名器。あのフランツ・リストが愛用したことから歴史は古い。数年前から従来の楽器を基にVCシリーズという新しく改良された楽器が発売された。あのアンドラーシュ・シフも絶賛しご自身で所有されている。
数年前、山野楽器銀座本店のピアノご担当の樋口哲朗さんと面識を持ち、VCの存在を知ったのが、そもそものきっかけ。その頃の私はスタインウェイにしか興味はなく、参考程度に詳しいお話を伺ったのは、今にして思えば恥ずかしい限り。人の話はきちんと聞いてみるものだと後悔している。でも、その頃の私がVCを弾いても、もしかしたら、うん、もしかしたらなのだが興味を持てなかったのかもしれない。何故なら、まだ私自身の感覚がその域まで到達していない、浅はかなレベルだったかもしれないから。
で、この度、VCを所有してみて数日ではあるが感じたこと。
他のメーカーにはない、響板以外にも響板に使うスプルースを使っているのもその一つの理由だろうが、響きが共鳴するということの真の意味を実感することができる。それは、なんとも心地良い、フワッとした柔らかい響きに弾いている自分が包まれる。これは今までのピアノ人生で何百台と弾いてきたが、一度も経験したことの無い感覚。これを味わってしまったら、この感覚が嫌な人はいるはずがないと思ってしまう。それに加えて、音に核というか、しっかりした密度が存在する。もしベーゼンドルファーは物足りないと思っている人には、驚くべき進化、変貌の一つに違いない。それにより、ベーゼンドルファーはウィーンの作品しか弾けないと思われがちだが、ショパンやフランス物、ロシア物と、どんな作品でも表現可能であると、誰しもが実感するに違いないと私は感じる。長ーいウィーンの伝統の象徴であるウィーンフィルの響きを思い起こさせる。そう。まるでオーケストラのような楽器と言えよう。あなたが、ご自宅でウィーンフィルの響きをピアノで奏でたい、味わいたいと思うならば、是非是非、VCを弾いてみていただきたい。今こうして述べることが出来るのも、山野楽器銀座本店の樋口さんのおかげであり、VCシリーズでなくても、山野楽器銀座本店には常時ベーゼンドルファーが置かれているので、弾いてみて、樋口さんにお話を伺うだけでも、心からお勧めする。