学生時代、ホロヴィッツの弾くスクリャービンに恋をした。当時の私にとって、それは麻薬だった。寝ても覚めてもといった具合に。

初めてエチュードを聴いたときは格別だったなあ。

メロディーの切なさや情熱にため息が出た。そして私はいつも幸せだった。安らかな幸せではなく胸が張り裂けそうな幸せだった。

 

試しにほかの演奏家の同じ曲を聴いても全然私には何も訴えてこなかった。干からびた演奏に聴こえるし、やる気さえも感じないと思ってしまうほど、物足りなさを感じた。

 

やっぱりホロヴィッツじゃなきゃね。

当時はロシアピアニズムが何たるかなんて皆無だったから、なんでこんなに音が多いのにメロディーが自由に歌っているのか不思議だった。

もしかしたら、録音するときメロディーだけ奥さんのワンダが手伝ってるんじゃないのか?と疑ってみたり。笑

 

今でも、ホロヴィッツのスクリャービンは私にとって特別な存在だ。