ザルツブルクの秋は短い。そんな秋の夕暮れ。私は自分の部屋の向かいの紫がかった山々をぼーっと眺めていたものだ。
その山の中腹に小さな古城が建っていた。いつの時代からそこに存在していたのかは知らないが、もしかしたら中世の時代にさかのぼることができるのかもしれない。
私が元気な時も、さみしい時も、いつもその城は変わらず私に何かを無言で語りかけてきた。
いつも優しく温かく見られているような気がしていた。
その城に背を向けて私は練習に明け暮れていた。
きっと今でも変わらず私ではない誰かを見つめているに違いない。
気が付いたら5年半もの間、その城に見守られながらひたすら練習をしていたのだ。
きっと、その城はこれからもそこに存在し続けるのだろう。
ゴールドベルク変奏曲のように。永遠に。